どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「ナニワ金融道」…大人が読んでも勉強になる、金融漫画の超名作

家族におススメされて、昨年初めて読んだ漫画。

金融漫画に興味もなく、絵もあまり好みでないなあと、全く乗り気でなかったけど、読んだらメチャクチャ面白かった…!

ナニワ金融道(1) (講談社漫画文庫)

ナニワ金融道(1) (講談社漫画文庫)

 

ナニワ金融道」は、バブル崩壊後の大阪、街金のサラリーマンを主人公に、お金に翻弄される人々を描いた作品。

文庫版で全10巻だが、コマが小さく、文字も内容もギッシリでかなり読み応えがある。

そして大人になった自分が読んでも、「勉強になる!」と思ったし、子供の頃に読んでいてもよかったな、と思う漫画だった。

ざっくりとしたストーリー内容と、面白かったエピソードベスト5をあげつつ、感想を語ってみたい。

 

主人公は街金で働くサラリーマン

バブル崩壊後の大阪。汗水垂らして働くサラリーマンが、煙草と酒を喰らう、そんな昭和の雰囲気が漂う世界。

主人公・灰原達也(28歳)は、ひょんなことから街金・帝国金融に再就職することに。

銀行から見放された者に、より高い金利でお金を貸す。相手がどうなろうと、必ず取り立てを遂行する。

一見”怖い”仕事に思えるが、意外に街金の仕事は”普通のサラリーマン”な一面もある。

基本客とは一回きりの付き合いになるので、金に困った新規客を探し続ける営業力。貸すに見合う担保があるかどうか、事前に行う入念な調査。合法的に契約を取り交わすための法的知識の駆使。相手にNOと言わさず金を払わせる交渉力。

主人公・灰原は回を追うごとに成長し、どんどん切れ者になっていく。

金融漫画といえば…の、あの「闇金ウシジマくん」を自分は読んでいないのだが…

闇金ウシジマくん 1 (ビッグコミックス)

闇金ウシジマくん 1 (ビッグコミックス)

 

 街金とはそもそも何なのか??一言で金融機関といっても色々あるようだ。

【銀行】…お金を預けることも借りることもきる金融機関。
消費者金融】…お金を〝借りる〟ことだけができるいわゆる〝ノンバンク〟の一種。現在のアコムやレイクなどは多分これに当たる。
【街金】…消費者金融の一種。中小規模で地域密着型。

闇金】…国に許可を得ず、暴利で金を貸すモグリ。

闇金が存在自体違法なのに対し、街金は金利も含め、なにもかも合法の範囲である。

昔よりも、法整備がすすんだ、今の時代の街金はもっとクリーンなのかもしれない。

しかし「ナニワ金融道」の帝国金融は、ギリギリのラインで、あの手この手を尽くし、利益を得ていて、その画策に驚嘆する。

灰原は優秀な街金社員となるが、焦げ付いた債務者たちへの同情を捨てきれない一面もあり、相手の返済プランやビジネスへのアドバイスも親身になって請け負ってしまったりする。

この人間関係も面白く、「資産ではなく人に貸す」という独自の金融道を夢にみる、灰原の真面目なキャラクターがとても魅力的だ。

 

面白かったエピソードベスト5

しかしながら帝国金融の相手は、一筋縄ではいかないような連中も多い。

金を回収するため、債務者と、銀行と、ときに国家権力とも戦う灰原たち。

この漫画、灰原たちが、ずーっと色々な敵と戦っている、アツいバトル漫画みたいなものにも思えてくる。

個人的に面白かったバトル5つをピックアップしてみたい。

 

第5位  vs 地面師…地面師ってナニ!?

地面師という単語がニュースで話題になっていたことがあった…けど、一体どういう人たちなのか??
1巻、割と早い序盤でナニ金に登場する〝地面師〟林田は、一見ごく普通のおじさんにみえる。しかしトンデモないことを平然とやってのける。

法務局の謄本を偽造してすりかえ、偽の資産を街金に確かめさせ、大金を借りる。
差し押さえる資産が実はないことに後から気付た灰原たちは大ピンチに…!

地面師とは、土地を所有していないにも関わらず、所有していると偽り、金をだまし取ろうとする詐欺師。

「行方知らずになった人間を探すには??」短いエピソードだが、追いかけっこも面白い一編。

 

第4位  街金 vs 闇金 の全面戦争

経営の苦しい小さな広告会社。切羽詰まって闇金にお金を借りたのが運の尽き。

骨の髄までしゃぶられた挙句、ついに闇金が持ちかけた計画倒産のアイデアに乗ってしまう。

闇金の横暴に気付いた灰原は、全面対決をのぞむことに。

ナニワ金融道(7) (講談社漫画文庫)

ナニワ金融道(7) (講談社漫画文庫)

 

闇金の銭田掏次朗というキャラクターは、「ミナミの帝王」の萬田銀次郎にインスパイアされたキャラクターだといわれているが、ナニ金側が先方を盗作だと主張していた経緯もあり、作者が腹いせに!?つくったキャラともいわれている。

債務者会議という取れるものだけは取ろうと全員集まっての熾烈なバーゲンセール。どこまでもズルい闇金業者と、街金だがある種の清廉さを備えた灰原の激戦が面白い。

破産一直線の社長のキャラもなかなかイイ。

広告料をいちゃもんつけられて払ってくれない顧客が沢山いて、人の好い社長には経営が向かなかったんだろうと思う。

倒産の通知を100枚コピーでつくろうとして、銭田に「少しでも怒りを鎮めるため、手書きするしかない」とたしなめられる姿もリアルだ。

どこかで甘く、自分で考える力をなくした人間は、悪に利用されてしまいやすいと分かる怖い一編。

 

第3位  抜けだせないクレジットカード地獄

先輩の結婚式にてご祝儀詐欺にあった泥沼亀之助は、帝国金融から150万をその場しのぎで借りる。

その借金をクレジットカードを使い完済。

そしてそのクレジットカードの引き落としを、またさらに別のクレジットカード決済で乗り切っていこうとする…。

自分がどこからいくら借りているかも分からない」「実は借金は増えているが、減っているように錯覚する」

泥沼は愚かだけど、こういう感覚の狂いは起こりうるものかもしれないと思うと怖いものがある。

同時進行で、夜逃げオヤジ・薄井のエピソードが繰り広げられるが、併せて読むからこその切なさガある。

 「その時 ふと『このツケはどっかで必ずまわって来るんとちがうやろか』と感じましたんや。人間汗水たらして働かんとロクなことないんとちがうやろかと思いましたんや。」

ナニワ金融道青木雄二著・講談社 文庫版2巻より薄井の台詞のみ抜粋

作者はマルクスを敬愛していて、カードなど信用できんと一切利用しない人だったそうだ。

変わり者ともいえるエピソードが沢山ある人のようだが、基本、労働やお金に対して極めて真面目な、潔癖ともいえる考えの人だったのかな、と思う。

 

第2位  マルチ vs 金融屋 譲れない一騎打ち

この8巻は、マルチ商法ネズミ講がどんな仕組みで儲けているのか、勉強になる神回。

ナニワ金融道(8) (講談社漫画文庫)

ナニワ金融道(8) (講談社漫画文庫)

 

灰原の敵は、タイヤの無店舗販売で地区成績トップをのこしたやり手セールスマン・枷木(かせぎ)。 

枷木も灰原と同じく若い。若く頭の切れる2人が、腹の内を隠しながら、お互いを自分の下に引き入れようと、画策するドラマがとにかく面白い…!

枷木たちのやっていることは、自らが問屋となり、下に小売店を次々に構え、倍々ゲームで儲けるという悪どいもの。

会員にすること自体が莫大な報酬になるマルチは違法。枷木たちのやってることは、あくまでも商品販売で利益を得ているので、OK…という理屈。

どう考えてもアウトだが、まるで新興宗教のようなマルチの異常な熱気が読者にまで伝わってくる。

そして基本メチャクチャな奴なのに、頭の回転が早く、仕事がデキる枷木をなぜか少し応援したくなってしまう。

楽して儲ける話にはウラがある…!

 

第1位  夢見る地上げ屋に惚れる…!

若き地上げ屋が、帝国金融から多額の融資を受ける。

資金繰りのため、地上げ途中の土地に風俗ビルを建てることにしたが、地元住民の壮絶な反対運動が…。

ナニワ金融道(3) (講談社漫画文庫)

ナニワ金融道(3) (講談社漫画文庫)

 

地上げ屋と地元民、勝利するのはどちらか…。灰原たちは資金を回収できるのか…。

この地上げ屋のキャラクター、肉欲棒太郎などというフザけた名前だけど、滅茶苦茶カッコいい!

20代にて数十億を動かす豪胆さ。野心に溢れているが、慢心していない。男気溢れる潔い性格。抜群のコミュニケーション能力。

地上げ屋といえば…土地の値段をより釣り上げるため、元々の土地の所有者を、ときには暴力も乱さず追い出し、土地をひとまとめにして売ることで、莫大な利益を得る連中…という悪いイメージ。

棒太郎は自称まともな地上げ屋で、クリーンな存在だという。誠心誠意、ひとりで行うがモットー。ゴミのような土地を立派な土地に変身させてやる…!一攫千金を夢見る棒太郎がまっすぐで応援したくなる。

棒太郎は、スピンオフでもみたいと思わせる、「ついていきたくなる男」だ。

 


世の中を知ることのできる金融漫画

全10巻、どのエピソードもえげつなく、面白く、ハズレがない。

表紙をみると、〝綺麗な絵でない〟=〝絵が上手くない〟ように思えてしまうが、読み出すとそんなことはない。

一コマ一コマ、契約書の書類に至るまで、よく見ると、書き込みがものすごい。

ちょっとした人物の動作なども、物凄く丁寧に演出されている。

作者の青木雄二氏は30以上もの職を転々としたというが、色んな人の生き様をみてきたのだろう。作者の〝目撃〟が詰まった作品のように思う。

「世の中には平気で騙す人がいる」「便利なものや美味しい話には裏がある」…社会やお金の仕組みの一端を知る上で、子供の頃(若い頃)に読んでいるといい漫画だな、と個人的には思った。

主人公・灰原の簡単にあきらめない姿勢には元気をもらえたりもする。

灰原と対照的に、「金貸しは所詮金貸し」と自らの域を出ない社長の哲学もなにげにカッコいい。冷血だからこそ生き残ってきたじいさん。2人のドラマももっとみたかった。

 

全10巻といわず、もっと続きがあればと思ってしまうが、45歳で漫画家デビューした作者の方は、体力面の不安もあったのか、漫画が売れてからは連載をやめたいとずっと言っていたそうで、巻数が少ないのが残念だ。

弟子の作った続編を少し読んだが、書き込み量が全然ちがう…。

青木雄二氏の一コマ一コマに魂がこもっているような細かさは、唯一無二なんだと思い知らされる。

ナニワ金融道 文庫 全10巻 完結セット (講談社漫画文庫)

ナニワ金融道 文庫 全10巻 完結セット (講談社漫画文庫)

 

金融漫画の超名作は、大人が読んでも面白くて勉強になった…!

繰り返し読んでみたいと思える、読みごたえのある作品。