「雨に唄えば」といえば…アメリカ映画協会が選んだベストミュージカル映画1位にも輝く1952年の色褪せぬ名作。
元気の出る映画で自分もこれまで何回もみている大好きな作品です。
こういうミュージカル作品、ストーリーはシンプルであってないようなモノ、って場合もあるけど、「雨に唄えば」はお話もめちゃくちゃ面白いんですよね。
サイレントからトーキーに時代が移るハリウッドのバックグラウンドを知る面白さ、人気俳優がこの変化の中で生き残りをかけるというドラマ。
そして何と言ってもミュージカルの大スター、ジーン・ケリーの躍動感溢れるダンスが見所ですが…
主演のジーン・ケリーだけでなくこの映画を観るまでは名前も知らなかったドナルド・オコナーという助演の俳優さんもすんごい芸達者で、2人の切れ味抜群のタップダンス、初めて観たときは本当に衝撃でした。
そんな大好きな「雨に唄えば」…先週末、宝塚歌劇団が舞台化したものが宝塚専門チャンネルでオンエアされていて鑑賞することに。
宝塚好きなのか、っていうと全然そうではなく…旦那が前から「銀河英雄伝説」の宝塚版を観たいと言っていてチェックしてたらしいのですが、銀英伝ないけど雨に唄えばがやってるから観たいということで、お試し登録してみることに。
正直かなりの期待薄、あの神映画はどうやっても再現できないのでは…と思っていたら、映画と比較しても全く嫌な気持ちにならない、予想以上の再現度にびっくりしました。
観劇のポイントとかも全く知らないズブの素人ですが、すごいと唸ったところをひたすら呟いていきたいと思います。
※鑑賞したのは、2008年の宙組公演です。
◆オリジナルへのリスペクトがハンパない
まず感動したのは、ストーリーを全くカットせず、台詞もほぼ完コピと、オリジナルを忠実に再現する脚色だったことです。
メインの登場人物だけでなく、冒頭映画のプレミアシーンで登場する脇役キャラたちでさえ全くカットせず、衣装から舞台装置に至るまで何もかも映画に似せていました。
作品の中で上映される映画の場面も、あらかじめ別撮りしたものをプロジェクタで上映、フィルムのカラーや質感も当時の映画の雰囲気を出すというこだわりっぷり。
ダンスに関しては、もちろんジーン・ケリーたちのような踊りをみせているわけではなく…ステップの数も少なく、激しい動きの部分は相当カットされていたけど、歌劇の人たちの動きのキレのよさ、優雅さに魅せられ、とにかく楽しそうに踊っているところに「雨に唄えば」らしさが感じられました。
◆コズモがイケメンすぎる…!
「雨に唄えば」の中で1番魅力的ではないかと思う、ドナルド・オコナー演じる、主人公の親友役コズモ。
映画では愛すべき3枚目キャラですが、宝塚版は超イケメン!!
コズモに限らず出てくる男役の人がもれなく麗しいオーラの人ばかりなので、「どこだよ、コズモは!?」と序盤は区別がつかなかった(笑)。
コズモがドンを元気付けようとセットのあちこちを移動して歌い踊る「Make’EM Laugh」のシーンは映画のハイライトの1つで、初めてみたときには、もう目が点になるくらい、すごすぎる!!と感動したシーンですが、ここもカットせずに再現。
コズモのように床蹴ってバク転したり、パントマイムのような技巧をするところはやっぱりなくなっていますが、その分、セットの方を動かす形でかなりオリジナルに近づけていて、深い愛を感じました。
◆リナ役が素晴らしかった
もう1人、「雨に唄えば」という作品で輝きを放っているのは、どこか憎めない悪女役リナかと思います。
黙っていれば美人、しかしひとたび喋るとその悪声にみんなうんざり、トーキー時代到来に女優生命の危機が…と気の毒ではあるんだけど、性格に難ありの大女優。
あの声と喋り方を再現するのはかなり大変そうだなあと思ったのですが、仕草、顔の表情、どこをとっても完全にリナ!!という見事なリナが登場。
リナ役を演じていたのは北翔海莉さんという元星組トップスターだった人のようで、普段は男役を演じてる人が異例で女性役にチャレンジした…ってすごい芸域の広さですね。
時々ドスのある低音をわざと出したりして、そこも笑いに変えていたり、途中映画にはないオリジナル曲まで披露…リナの哀しさまで伝わってきてそこも含めて魅せられました。
◆語感を大切にした日本語訳
ミュージカルの日本語歌詞って、ディズニーの吹替とか聞いていてもダサいなあと思ってしまうことが度々あって、コズモの♫Make’EM Laugh が ♫笑わせ〜 という訳だったのは、もうそこは英語のままにしてよ、と思ったのですが、発声訓練のシーンはオリジナル愛を感じるものになっていました。
ここを、♫申せず、サボれず、人知れずは労せず、申せず、サボれず、休みが好き~という歌詞にアレンジ。
意味は分かりにくいけど音の響きの楽しさを近づけてくれてるところがいいなあと。
リナの特訓場面の、Can't の部分は、出来なーい→出来にゃーい とベタべタな日本語訳だったけれど、ここも笑わせてくれました。
◆雨も降らせる驚愕の舞台装置
宝塚歌劇とこの「雨に唄えば」のクラシックミュージカルの世界観は相性が抜群にいいのか、後半のブロードウェイメロディーのパートも、夢の世界って感じがしてかなり映画に近いイメージ。
しかし舞台装置で1番びっくりしたのは、あの名場面で雨を降らせたというところです。
2幕構成だったこの宝塚ミュージカル、この場面を1幕の終わりに持ってきてたので、インターバルのあいだに濡れた床全部拭いたんだなーと思うのですが、雨まで降るとは思わないとビックリでした。
全然歌劇知らない自分用に、とりあえず主要のキャストさんをメモすると…
・ドン役・・・大和悠河
・コズモ役・・・蘭寿とむ
・リナ役・・・北翔海莉
・キャシー役・・・花影アリス
大和悠河さんのドン、ジーン・ケリーのドンと違って若々しい少女漫画の王子様みたいな雰囲気のイケメンでしたが、甘さ倍増で夢の世界に連れてってくれる感じ…これはこれでいいなあと(笑)。
みなさん美しく、きっと映画を何回もみてすごい稽古されたんだろうなあと想像してしまいました。
もう映画と比較するという目線でのみの鑑賞になってしまいましたが、とにかく観てて楽しく、テレビでみてこんなだから生はもっとすごいんだろうなあと思います。
宙組以外の「雨に唄えば」もあるようだし、各組の特色や、原作との相性、演出家の違いとか、掘り下げたらすんごい深い世界が広がっていそうな…。モノによってはそれこそ銀英伝のように元がミュージカルでないものをミュージカル化した作品もあるだろうから、どんなのか気になりますね。
元の映画の素晴らしさも蘇ってくるような愛を感じる再現度にうっとりでした。