湖畔のキャンプ場を襲う巨大バサミを持った殺人鬼…!!
「13日の金曜日」に便乗した81年のホラーですが個人的にはこちらの方が好き。
サマーキャンプの若者たちが生き生きしているのが魅力的、素人臭さが漂いつつも殺しのペースが意外で予想がつかなかったり、陽キャと相容れない陰キャの人生の悲哀が感じられたり…
ありきたりなようで他とはちがう輝きのあるスラッシャームービーでした。
◇◇◇
とあるキャンプ場…少年たちが嫌われ者の管理人・クロプシーの枕元にドクロを置く悪戯を仕掛けました。
ところが蝋燭の火が燃え移ってクロプシーは大火傷の重体に。
その5年後…全身状態がかなり悪そうなのにいきなり退院させられるクロプシー。
外に出た直後に娼婦を買おうとするのがアグレッシブであります(笑)。
しかし火傷した男の顔を見た娼婦は絶叫、クロプシーは女性をハサミで切り付けます。
怒りを抱えて殺人鬼と化した男は、かつて自分がいたキャンプ場へと足を運びます…
子供を殴ったり虐めていたりしていたというクロプシーさん、悪い人ではあったんでしょうけど、具体的なエピソードに欠けるのでどんな人だったのかイマイチ分からないまま。
ここまでの目に合うのは流石に気の毒に思われます。
キャンプ場にはかつて悪戯をした少年の1人・トッドがいて、最終的なターゲットが彼だったのか、若いキャンパーが許せんと無差別に狙ったのか…詳しい事情はハッキリしませんが、怨念だけはしっかり伝わってくるようでした。
しかし肝心の殺人がなかなか起こりません(笑)。
ミスリードの連続で前半は意外とのんびりしてますが、大所帯なサマーキャンプ集団が観ていて楽しい。
野球中も女子のお尻をガン見しているのはお調子者・エディ。果敢なアタックが成功していて意外と遊び人!?
エディといい感じになるものの身体の関係を持つのを躊躇うのはカレン。
ヤリチンと処女が喧嘩して修羅場に…という妙に生々しい青春の1ページが(笑)。
シャワーシーンを見せてくれるサリーはふしだらそうに見えるものの他の女子とも仲良くしていて悪い娘ではなさそう。
そんなサリーと付き合うのはマッチョなDQN・グレイザー。なんだかんだカースト上位女はこういう強引男に惹かれてしまうのがこの世の常。だけど早漏なのは予想してなかった…!!
グレイザーに度々虐められているのは根暗少年のアルフレッド。陰キャが大人数のイベント苦痛なの分かる(笑)。でも暗いことばっかり言って周りの雰囲気を盛り下げる、コイツも大概なダメ男。
そんなアルフレッドに優しく接するメンバーもいて、朗らかなデイブは皆のムードメーカー。
ビタミンEを後生大事に抱えて見事な射撃の腕をみせるウッドストックもいい子そう。
そして…かつてクロプシーに重傷を負わせたトッドはキャンプチームのリーダーに昇格、学級委員タイプの女子・ミシェルと皆のいないところでイチャイチャ。
自分が傷つけた男の話をキャンプファイアーで面白可笑しく語るトッドが1番ヤバい奴のような気もしますが…
前半はなかなか殺人が起こりませんが、後半一気に殺戮モードへ突入。
カヌーが全て持ち出され孤立した若者たちは筏を作り、複数人のメンバーを乗せて救助を呼びに行きます。
途中でカヌーを発見し確認しようと近づいていきますが…
(異様に遅い速度にドギマギ)
死体を発見するのかと思いきや、息を潜めていた殺人鬼が突然起き上がり怒涛の速さで一気に5人キル!!
太陽の光を背に浮かび上がる殺人鬼のシルエット…首にハサミが突き刺さり、バッサリ切り落とされる指…トム・サヴィーニの特殊効果も冴え渡る名シーン。
続いていじめっ子だったDQNのグレイザーも殺人鬼の餌食となりますが、その様子をこっそり目撃していたアルフレッド少年は一瞬笑みを漏らします…
自分はこのシーンがこの映画で1番怖かった。
クロプシーさんの過去は全く描かれていないけれど、きっとアルフレッドみたいな奴だったんだ…と思わせるキャラクター配置が何だか深い。
やった方はなんとも思っていなくてもやられた方は忘れちゃいない…沸々と溜められた怒りが燃え上がる瞬間があるんだ…
キャンプという煌めく青春の光の中に横たわる暗い影。
グレイザーに虐められていたアルフレッドは不満の捌け口をガールフレンドのサリーに向けていて覗き見をしては「怖がらせようと思った」などと悪気なさそうに呟いていました。
キャンプの子供たちを殴っていたクロプシーも昔誰かに虐められていてその憂さ晴らしをしていたのかもしれません。
けれど怒った子供達から報復を受けて一生癒えない傷を負い、今度は無関係な人たちを殺すようになる…
ぐるぐると回り続ける理不尽な暴の連鎖みたいなのものにリアリティとやりきれなさを感じてしまいます。
クライマックスはアルフレッドを助けに来たトッドと殺人鬼がついに対面。
火傷を負ったトラウマで殺人鬼は火が怖いに違いないと思っていたら、自らバーナーを持って現れるのでびっくり(笑)。
結局クロプシーは返り討ちにあって再び身体がバーニング、十字架のようなオブジェと化して朽ちていきます…終盤はやや尻すぼみながらも、なぜだか美しく寂寞感漂う最期でした。
イエスのリック・ウェイクマンが手掛けたシンセのきいた音楽もぴったり。
殺人鬼視点のカメラはこの手の作品あるあるな演出ですが、視界が少しぼやけていて、犯人の火傷の後遺症が窺える…細かいところでも悲哀を感じさせてとても良かったです。
公開当時興行が振るわなかった本国に対しヒットを飛ばしたのが日本だったそうですが、殺人鬼を勝手にバンボロと名付けた東宝東和の大袈裟なプロモーションが功を奏したのでしょうか…この時代のフリーダムなエピソードにはびっくり(笑)。
人生/青春の悲喜交々を感じさせる、味わい深いスラッシャームービーでした。