どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「スペース・トラッカー」…トラック野郎デニス・ホッパー、地球を救う

スチュアート・ゴードン監督の作品で観てないうちの1本だったのですが、おもちゃ箱みたいなSFの世界、心休まる深夜アニメのようなあったかさでした。

スペース・トラッカー [DVD]

スペース・トラッカー [DVD]

  • 発売日: 2000/01/21
  • メディア: DVD
 

人類がすっかり宇宙進出している2094年。銀河を駆ける一匹狼のトラック運転手・ジョン(デニス・ホッパー)は新米トラッカー・マイクと愛するウエイトレス・シンディを連れて謎の荷物の輸送を引き受けることに…
その中身はなんと殺人兵士ロボットだった…!!

イージーライダー」ではバイクで駆けてたデニス・ホッパーがトラック野郎というキャスティングが粋。

若い女が大好き&若者をライバル視とめんどくさいオッチャンですがここぞという時には先陣切って表に立ちベテランのプライドをみせる。憎めないカッコいい親父がハマってました。

SFとしての世界観はとことんふざけていて、列車のようにコンテナを連結したトラック、宇宙に浮かぶチープなデザインの広告…
宇宙ステーションにはザ・アメリカンダイナーがあってカントリー調の音楽がかかっている…とアメリカの田舎町がまんま宇宙に移転したようなおかしな世界。

要のトラックは朝8時の戦隊モノのようなカラーリングですが、デザインを手掛けたのが日本人らしく納得。

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座席部分のシートがローカル遊園地のアトラクションみたいなバーだったり、冷却装置が壊れて服を脱ぎはじめるなどバカバカしさにほっこりします。


しかし所々にホラーな描写も…

冒頭出てくる輸送品、四角豚は遺伝子組み換えってレベルじゃねえぞ!な加工食品っぷりでディストピア感が漂ってます。

トイレに逃げ込んでバッタリ鉢合わせたバーサンが何とアンドロイド、口がぐわーーっと開いて機械仕掛けの中身が剥き出しになるシーンもどこかフェティシュさを感じさせました。

そして何といっても半身改造人間の宇宙海賊船のマカヌード船長が最高です。

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↑「ゴールデンチャイルド」「ラストアクションヒーロー」で悪役やってたチャールズ・ダンス、迫力あるお顔で好き。

開発していたロボットに返り討ちにあって半身を失うも自家製脳味噌を発明。

股間には渾身の一作、電気仕掛けのおチ◯チ◯が…使ってないから錆びつくだなんて、なんて悲しいんでしょう…

小学生で精神年齢止まったような下ネタに爆笑してしまいます。

 

積荷の殺人ロボットと遭遇するシーンは「エイリアン2」のような雰囲気でした。

ロボットのデザインも独特でザ・機械しておらず着ぐるみ着た人間が中に入っているようで、くっきりしたボディーラインが目につきます。

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ここも特撮モノっぽいですが、このデザインを手がけているのも世界的に知られる日本人アーティスト空山基だそうで…(自分はこの分野に全く詳しくないけどAIBOのデザイナーと知ってへえ〜)

アームにはナイフ装着、その上なんか触手っぽいワイヤーが出てきた…!!うーん、これはメイドインジャパン!!

立て続けに撃たれるビーム砲もカッチョいいのですが、リモコンボタンでピタッと止まるとことかまた馬鹿げてて笑ってしまいます。

こんな危険なロボを地球に連れて行けるか!!と大気圏突入でロボを処分しようとするホッパー親父、若者に席を譲って自分が残る姿はまるで「アルマゲドン」。

地球に無事帰ってくるところはなぜだかじーんと感動してしまいました。

 

特にストーリーがあるわけでもなくボーッとみるのに最適な映画ですが、ゴードン作品常連さんの顔がチラホラみえるのも楽しいところ。

宇宙海賊船の暴れん坊乗組員はヴァーノン・ウェルズ…!!(「フォートレス」にも出てたよね)

宇宙ダイナーにいる落ち着いた女トラッカーは監督の奥さん…!?(いつも神出鬼没)

そして地球で眠りについていたウエイトレス・シンディのお母さんはバーバラ・クランプトン…!!

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ゴールドスリープしてたから若いままの姿で出てきて大喜びするホッパー親父。

他の作品だと碌な目にあってないけど今作ではイイとこ取りした感じのゲスト出演で嬉しいサプライズ。

 

96年の作品なのでCGも使っているけどとことんチープな出来栄え。それが返って手づくり部分の良さを際立たせているようで、重力無視した円形のステーションの床が坂になってるとことかよく作られてるなーとみてて楽しかったです。

好きなモノ作ったった感が伝わってきて幸せな気持ちなれるゴードン作品でした。

 

「刑事コロンボ」の傑作エピソード、「溶ける糸」を久々に観た

自分が子供の頃には地上波で度々テレビ放映されていた「刑事コロンボ」。

犯人を頭からネタバラシした構成、ヨレヨレのおじさんが切れ者というギャップは子供がみても新鮮で、あとから「古畑任三郎」を知った際には「コロンボのパクリやん!」とその感動は大分薄れてしまったものでした。

この「溶ける糸」はテレビ放映ではなく親が「コロンボで1番面白い話はこれ!」とビデオを借りてきて見せてくれた回だったのですが、公式の人気投票でも4位にランクインと評価の高いエピソードのようです。

www9.nhk.or.jp

いやー、めちゃくちゃ久しぶりにコロンボみたけど今見てもなんてクールなドラマなんでしょう。

当時は露知らずでしたが、犯人役は「スタートレック」のスポック博士役でおなじみレナード・ニモイと豪華ゲスト回だったんですね。

ニモイ演じる高名な心臓外科医メイフィールドは野心溢れる男。
共同研究者のハイデマン博士が心臓病を患ったのを利用し彼を殺害して名誉を横取りしようと企む…

この話で面白かったのは、冒頭にて犯人が手術で何か細工をしたことを示しつつ、先に殺されてしまうのはそれに気付いた看護師という意外な幕開け。

タイトルの「溶ける糸」がずばりトリックそのものを指していてネタバレになっている気もしますが、手術に使う糸にわざと「溶ける糸」を使い、時間が経つと弁が離れるように細工、そうして心臓発作による自然死に見せかけようという計画。

お医者さん怖っ!!とゾッとするこの仕掛けだけで面白かったです。

冒頭におじいちゃん先生は既に手術されてしまっているので今にも死んでしまいそう…制限時間のあるサスペンス要素も挟まれていて二重にドキドキさせられました。

 

子供の頃に観た際にも心奪われハッキリ憶えていたのはコロンボが最初に犯人に会うシーン。

看護師死亡の知らせを電話で受けたメイフィールドが電波越しには「どうして…」などと動揺した口調で話す一方、手はしっかり時計を直す作業を続けている…

その姿を後ろからみていたコロンボ「いやー、先生はすごい集中力の方なんですね。普通動揺して時計なんか修理してられませよ。」みたいに言う(笑)。

自分がコロンボだったら果たしてこういう違和感に気付けるのかなー、言われてみればだけど絶対スルーしそうと思ったりして、コロンボの「なんか引っかかる」の抜群の嗅覚、アンテナの高さをみせるところがやっぱりカッコいいです。

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↑洞察力ある男はカッコイイ!!

 

犯人がコロンボを一瞥して「あー良かった、パッとしない鈍そうな奴が担当刑事で」などと油断するもその後しつこく絡まれまくるというのもお決まりのパターン。

本作では自宅パーティーにちゃっかり紛れこんで、料理をたらふく食べた後「お腹痛いから胃薬くれます?」ってマイペースすぎる。コロンボの太々しさがみていて楽しいです。

犯人に対して直接的な疑問をぶつけることは案外少なくて「ああでもない、こうでもない」とひたすらお喋りする…犯人にしてみたら「あなたが犯人だから知ってるよね」と遠まわしに言われてるようで、プレッシャー受けた相手がポロっと言葉をこぼしたりする…それがこっちがみてても不自然な返しだったりして、やんわり雰囲気の中で繰り広げられる心理戦が最高です。

犯人捕まれーの思いとこんなに絡まれたらたまらんやろなーという思いとでごっちゃになります(笑)。

 

しかしこの「溶ける糸」回は犯人がかなりの凶悪犯。無関係な看護師さんを手にかけているし、偽造のためにさらなる殺人も躊躇わないというかなりヤバい奴でした。

「あんたが彼女を殺した」とコロンボが迫るシーンがありますが、犯人の方が冷静でコロンボが激昂というのはイメージが違ってびっくりします。

演技にはみえないけどもし演技だとしてもそれくらい圧をかけなければならない相手だったということで、強敵感の漂う犯人でした。

 

しかしラストは大逆転、呆気ないくらいにスッとした幕引き。衆人環視の中の再手術、証拠のはずの溶ける糸はどこに…

「冷静なはずのアンタが掴みかかるなんておかしいと思った」…犯人の人物像そのものを伏線にしたようなオチが見事でした。

サクッと綺麗にまとまってて見終わるとスッキリ!!

天井ガラスの手術室、昔の部屋のインテリアなど何てことはない舞台がやたら贅沢に映り、まさに上質という言葉がぴったり。あっという間の74分でした。

 


コロンボと「エクソシスト」の刑事は似てる…??

こっからコロンボからちょっと脱線した話になりますが…

最近映画「エクソシスト」を再鑑賞した際のこと、オーディオコメンタリーにてフリードキンと原作者ブラッティが登場人物のキンダーマン警部と刑事コロンボを重ねて話していてとても意外に思われました。

キンダーマンというのは「映画監督のバークを殺したのは誰なのか??」を調査する警官ですが、堅物刑事っぽいけど人柄は良さそう&関係ない雑談を振りまきながら案外しっかり事件を探る…とあのめちゃくちゃホラーしてる映画の中で特異な立ち位置のキャラクターでした。

フリードキンもブラッティもこのキンダーマンをすごく気に入っていたようで、人当たりマイルド刑事キャラとして時代の先を言っていた、コロンボがその先端と言われてるがその功績を取られている…みたいに話してて、全然コロンボに似てると思わなかったので何だかびっくり。

それがあってコロンボってどんなだっけ??と1番記憶に残ってたエピソードを拾ってみたのですが、やっぱりキャラとしてはまるで似てると思えませんでした。

でも意識すると、

・高圧的なザ・尋問はせずにお喋りするような会話で何かを引き出そうとする
・知らない分野にも丁寧な姿勢で挑もうとする

ところなどは共通してるようにも思えました。

リーガン宅でコーヒーを飲みながら母親と話すところのやり取りは言われてみれば〝っぽい〟かも?

 

公開された時期をみるとコロンボの方が古いので、「こっちが先だった」と言わんばかりのフリードキンの発言は不思議に思えましたが、もしかしてキンダーマンの方がコロンボに似てるって指摘が公開当時にあったのかなあ、原作は執筆に時間がかかったらしいからブラッティ的にも「先に考えてたのに」みたいな思いがあって癪だったのかなあ…って勝手に色々邪推。

古畑しかり探偵的刑事キャラって今だとそんな珍しくないと思うんですが、それまでのアメリカの刑事モノがごりごりのハードボイルド系で、それだけエポックメイキングで比較されたんですかね。

 

コロンボはテレビ放映されたのを観てたのと、二見書房から出てたノベライズ版を図書館で借りて読んでいたのとで、元々そんなに沢山みてない&だいぶ前に観たきりだから忘れてる状態だったので、久しぶりにみたらとても新鮮でした。

今回配信でみたけど日本語吹替がなく泣く泣く字幕で視聴…やっぱり「うちのカミさんがね」が聞きたい!!

レンタル店に吹替入ったDVD置いてないか今度チェックしたいと思います。

 

「エクソシスト3」…傑作!!人間讃歌のオカルトホラー、ブラッティの演出が面白かった

意外、もっと早くに観ておけばよかったーと後悔です。

エクソシスト3 [Blu-ray]

エクソシスト3 [Blu-ray]

  • 発売日: 2014/10/08
  • メディア: Blu-ray
 

1のラスト改変と2の全てが不満だった原作者ブラッティがついに自らメガホンを取った「エクソシスト3」。

1の続編として無理なく成立している上、ホラー映画としても怖さたっぷりでよく出来てました。

序盤の刑事ものの雰囲気は「セブン」にとてもよく似ていて、90年公開と考えると後に作られる陰鬱サイコサスペンスの先端を行った作品だったのではないでしょうか。

 

3の主人公は1にも登場したキンダーマン警部。

1でキンダーマンを演じたリー・J・コッブは76年に亡くなってしまっていて、今作ではジョージ・C・スコットにバトンタッチ。

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ホラー作品では「チェンジリング」にも出演してましたが、ドッシリしてて安心感がありすぎで怖さを半減させる人選のような気もします。

が、キンダーマンの人の懐に入ってしまう剽軽な人柄、刑事としての優秀さなど前作の人物像は違和感なく表現されていて素晴らしかったです。

1の原作(とDC版)のラストはこのキンダーマンとカラス神父の友人であったダイアー神父が知り合うところで幕引きとなっていました。

ダイアー神父役の俳優さんも1と違う人になってましたが、堅苦さとは無縁の神父らしからぬキャラクターは健在。

カラス神父が亡くなってから15年経っても2人の友情が続いていたということにほっこりです。

しかし…!!
ダイアー神父がある日何者かに惨殺されてしまいます。折しも街では凄惨な連続殺人が起きており、その手口は15年前に解決したはずの双子座殺人事件に酷似していました。犯人は既に処刑されたはずなのになぜ…??

残酷な殺人描写は映らないものの、口頭で説明される被害者の死に様がキツい内容で想像させてくるのが怖い、怖い。

 

やがてキンダーマンは「自分こそ犯人だ」と名乗る隔離病棟の男と対面。男が亡くなったはずのカラス神父と瓜二つで動揺するキンダーマン。

しかし観客の目にはブラッド・ドゥーリフ演じる若い男の顔とカラス神父の顔が交互に映ります。

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このミスリードも上手くててっきり「悪魔がキンダーマンを動揺させるためカラス神父の幻覚を映したのだろう」と思っていたら…なんと男は本当にカラス神父で、処刑された殺人鬼の魂を悪魔がカラス神父の死体に入れ込み無理矢理蘇生させた…ってオチ。

後半はオカルトホラー全開でしたが、信仰心のない現実主義者を主人公に据えて感情移入しやすいドラマになっていたと思います。

多くの凄惨な事件と相対してきたキンダーマンも「なぜこの世にこんな理不尽なことが溢れているのか」と胸を痛めてきた人でした。

犯人の「仕方ないだろう。俺の性格をつくったのも神様だ。」の言葉は腹立たしく絶望的です。 

神の不在という信仰のテーマは自分には理解できるものではないですが、現実にある恐ろしい事件を思い浮かべたときの「人のやることじゃない」と言いたくなるような暗い気持ち…社会不安や厭世観みたいなものは共通するところがあるのかなと思います。

この世の殺人鬼=悪魔にした設定が上手いなあと思いました。

 

ラストは1(原作)と全く同じテーマを強調しているようでした。

「この世には確かに悪、不条理なことが存在しているがそれに立ち向かう人間の善性も含めて神の作られたものである」

…と受けとめる信仰心がブラッティの描きたかったところなのだと思います。

神様云々と言われるとピンとこないけど、「必ずしも思った結果が得られるとは限らないが希望と意思を持って行動する」…「人事を尽くして天命を待つ」っていうのは生きていく中色んな場面で人が直面する課題のように思えます。

(合格できるか分からないけど受験勉強頑張るとか、売上あげるために試行錯誤するとか日常の生活に関することでも)

一見どきついホラー映画に思えるけどエクソシストの中身は結局のところ「懸命に生きる人」を描いた人間讃歌のドラマなんじゃないかなと改めて思いました。

 

最後に悪の存在を認めるキンダーマンの咆哮は「ポセイドンアドベンチャー」の神を呪うスコット牧師のような迫力!!

その叫びに応えるように善なるカラス神父が再度姿を現すところは感動もありつつ、1よりも物悲しい、暗い気持ちが残りました。

カラス神父もダイアー神父も失って1人残されたキンダーマン。

きっと作者自身も歳をとって家族や友人を失う人生の別れを経験したからこそ滲み出た寂寞感…これは1になかったもので老いの哀しみも感じさせました。

カラス神父の15年を思うとあまりにも酷い処遇でしたが、エンドロールに流れてくる賛美歌が美しく最後にカラス神父は救われたのかな、と余韻が残りました。

 


◆ブラッティの演出が面白かった

それにしてもブラッティ、映画監督が本業じゃないはずなのに怖がらせ方が堂に入っていて見応えのあるシーンがたくさんでした。

1番印象的だったのは夜勤病棟を固定カメラで追う場面。

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静かな夜の当直の雰囲気にドキドキ、丁寧に視線を追わせておいて最後はシザーマンかよ!!というホラーオチに2重にびっくり。

 

「メモを見ながら同じ台詞を繰り返し練習するヤブ医者のシーン」も地味に怖かったです。

先に違和感を見せつけることで次のシーンの緊張感を上げる演出が効果的。

犯人視点でみせる刑事ドラマのような見せ方をいきなりぶっ込んでいてユニークでした。

 

そしてビビりまくったのはやっぱり天井のバーサン!!

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全体的に超常現象描写は抑え目だったところにいきなり来るので怖かった…1のスパイダーウォークを上回る効果的な使い方でした。

 

精神疾患を抱えてる人は悪魔に乗っ取られやすい」という設定はどうなんだろうと思うものの、健康であることも決して自分で選べることではないと思うと、1然り、病院は不条理さを描く上ではまたとない舞台だと思いました。
(これに比べると2の「リーガンが超能力で自閉症の少女を治す」は陳腐に思えてしかたない)

 

後半、犯人男が真相の一切合切を都合よく語るシーンはザ・説明で粗に思ったものの、夢の幻想シーン・思い切った場面の切り替えなどには引き込まれました。

1のように一貫したトーンがあるわけではないけど、撮りたいように撮りながら雰囲気は統一されてて面白いつくりの映画でした。

 

1とどっちがいいかと聞かれればやっぱり1は圧倒的。

フリードキンの情け容赦ないリアリズムとブラッティの原作がもつ繊細さと…両方が奇跡的に溶け込んで、親子ドラマでもあるところがいいなあと思います。

でも3は3で90年代の猟奇殺人系作品を先取りしたようなダークさとオカルトホラーが融合してとても味わい深い作品になっていました。

原作「レギオン」は日本語訳出てないみたいだけど、読みたいなー。

2みてから長らくエクソシスト関連作を徹底的に拒絶してましたが、大反省。2がダメでも3で逆転ホームランする「猿の惑星」みたいなパターンあるんですね。

繰り返しみたいと思う作品です。

 

「エクソシスト2」、別物としてみれず消化不良

先月フリードキン監督の「エクソシスト」を久々に鑑賞。改めてみても面白くてこの機に未見だった3も観てみようと思っていたのですが…
あまり好きじゃなかった2をもっかい見直すかどうしようかなーと二の足踏んでたのを再鑑賞。

エクソシスト2 [Blu-ray]

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  • 発売日: 2014/10/08
  • メディア: Blu-ray
 

やはり1の全てをなかったことにしたようなストーリーが受け入れ難く、原作者ブラッティが怒ったというのも納得。最後も???でした。

 

今作の主人公はリチャード・バートン演じるラモント神父。

生前メリン神父と親交があり、自らも悪魔祓いの経験があるが失敗して心折れた過去の持ち主。

彼がメリン神父の死の真相を探るため調査に乗り出す…というのが大筋ですが、1で最終的に悪魔を祓ったのはカラス神父なのにその存在については一切触れられないのが不思議に思えてしまう…

一方リーガンは事件から4年が経過してカウンセリングに通いつつ日常生活を送っていましたが、母親は仕事で不在。

代わりに登場するのが催眠研究家のタスケン医師ですが、信仰のない現代人&1人で子供を育てる働く女性…とクリスの穴を埋めるために練られたキャラクターって感じがしました。
エレン・バースティンがオファー断ったのかな)

そして脳波を同調させて同じ夢をみるというトンデモ科学な機械が登場!!

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ボワーン、ボワーンと鳴りながら光が点滅する映像はこっちの頭もボワーンとなってきます(笑)。

でも夢で意識共有っていう設定は「ザ・セル」とか「インセプション」みたいで面白いですね。

 

そしてここでハッキリと「メリン神父は悪魔に殺された」のだと明かされます。

1作目では、
・元から心臓を患っていて、たまたま対決中に力尽きた
・悪魔との戦いで多少の寿命が早まったかもしれないが本人は自分の死期を悟った上で戦いに挑んだ

という描かれ方をしていた(と自分は思っているのですが)、心臓を鷲掴みする悪魔が却って陳腐にみえてしまいました。

パズズが1作目終了後もずっとリーガンに取り憑いていたのか、力をつけて戻ったところを偶然ラモント神父が発見したのか…この辺りも分かりにくいです。

そもそも前作で悪魔倒せてなかったんかい!?という疑問も湧きますが、カラス神父がリーガンから追い出して祓いはしたものの、悪の存在自体が消滅するわけではなくまた出現する可能性はあるということだったんでしょう。(これは原作もそれを示唆した終わり方になってたように思う)

 

しかしまあこの悪魔との再対決、リーガンと精神同調することでその中にいるパズズと交信し過去のメリン神父とコンタクト…ってえらい複雑。

悪霊側としては自分と対話させることでラモント神父を取り込もうとしたのでしょうが、夢の中で都合よくメリン神父の過去を覗き見できるので悪霊がわざわざ自分を倒すヒントをガイドしてるようでチグハグに思えてしまいました。

 

そしてその結果、ラモント神父はメリン神父が過去に助けたコクモという少年の存在を知ります。

コクモもリーガンもなぜ悪魔に選ばれて取り憑かれてしまったのか??

この解釈も2は1と全く違う結論になっていて、なんとリーガンたちは選ばれた能力者。

「人々を良い方向に導くことのできる善なる力の持ち主だったので、その存在を消すためパズズが狙った」ということになってました。

前作の、何の因果もなくただ人を絶望させるために少女に取り憑いたというのが恐ろしく、「リーガンの思春期の迷い、暗い気持ちが悪魔を引き寄せた」と解釈できるところも奥深くてよかったと思うのですが…

夢意識に登場するジェームズ・アール・ジョーンズのイナゴの被り物をしたコクモは強そうでカッコよかったです。

大量のイナゴの映像も個人的には結構好きなので、アフリカを舞台にした全く別の作品として作ればよかったのになあと思ってしまいます。

 

最後には1の舞台であった家に登場人物が集結。

リーガンの姿を借りたパズズが顕現しラモント神父を誘惑して本物のリーガンを殺させようとしますが、イナゴの大群がどこからともなく現れ、神父の物理攻撃とイナゴのパワーで悪霊退散!?

文化の異なる土地からの助力と善良な少女の呼びかけで神父が自分の中の悪に打ち勝ってハッピーエンド!!ってことなのかね……肝心のラモント神父に感情移入できるドラマがなかったのでどうにも感動できずでした。

最後にタスケン医師が1人残され、選ばれたリーガンと神父だけが旅立つというのもモヤッとした物悲しさが残ります。

秘書シャロンが死んでしまうのも驚きでしたが、そもそも再登場自体が解せない感じでした。悪魔の影に触れてリーガン(の中にいたパズズ)に惹かれてしまいこの家族と離れがたかったのでしょうか。

1のラストでクリス親子に心を寄せつつもお別れする姿が切なくてよかったのに、前作のキャラクターの使い所を悉く外してるように思われました。

 

話が1の地続きとして作られてる以上、1と別物としてみるのは難しく、夢シーンでメリン神父にザ・説明な台詞回しをさせてるところなども粗として気になってしまいました。

映像的に惹かれる部分はあり、リーガンが屋上でふらーとしてるシーンはいいですね。

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ごっついマンションだなあ。

モリコーネの音楽もよかったです。

 

改めてみると、ラモント神父を通して過去のメリン神父の信仰への迷いをテーマにしているようにも思えたのですが、どうせやるならやはりメリン神父自身で…信仰・文化の異なる土地で悩みながら奮闘する前日譚をマックス・フォン・シドーでやって欲しかったなあと思います。

1のときは老け顔メイク&ご本人の貫禄で老齢メリンを演じてましたがなんとあの時はまだ44歳。2ではそのままの姿で若メリンを演じられていたことだし…

エクソシスト ビギニング [DVD]

エクソシスト ビギニング [DVD]

  • 発売日: 2005/04/08
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時を経てそれを実現したのがビギニングってことなのかな。(そういやこれも観ていない)


個人的にはやはり消化不良、2にブラッティが激怒したということを確認させてもらいつつ、気を取り直して3を鑑賞したいと思います。

 

「パトリック」…サイコキネシス青年との切ない対決

1978年公開のリチャード・フランクリン監督によるサイコ・サスペンス・ホラー。

昔ビデオでみてアタリだった記憶があるのですが、この度めでたく再ソフト化。

パトリック blu-ray

パトリック blu-ray

  • 発売日: 2021/02/26
  • メディア: Blu-ray
 

リチャード・フランクリンといえば、お猿さんがエリザベス・シューを追いかけ回す「リンク」が思い浮かぶのですが、あちらがホラー版「美女と野獣」ならこちらは「眠れる森の美女」の男女逆転版って感じでしょうか。

歪なラブストーリーホラーで好きな人間には刺さる1本でした。

 

冒頭は熟年の男女が激しく愛し合っているという中々気まずい場面からスタート。隣の部屋でそのイチャイチャ音を1人きいている息子パトリック。

母親に恋人が出来たことを快く思わなかったのか、風呂場でイチャつく2人に電気ストーブを投げつけ殺害。「サイコ」を思わせる設定です。

しかし青年は実の母を殺したショックから昏睡状態におちいり、3年の月日が流れました。

そこへ新任看護師のキャシーが赴任してきます。

舞台となるのは小さな私立病院ですが、なかなか雰囲気のある建物。

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意地悪そうな婦長さんとの面接では、「給料は最低賃金。勤務時間は長い。予告なく解雇するけどいいわね??」

どんだけブラックなんだよ!?嫌な予感しかしない職場ですが、ヒロインも離婚を考え中と訳ありの身らしく承諾。

婦長に続き院長先生もキテレツな人でパトリックを診ているのはあくまで研究のため…同意もなく人体実験を行うなどマッドサイエンティスト臭しかしません。

病院内でパトリックを献身的に介護するのはキャシーだけでした。

 

しかし段々奇妙な出来事が彼女に降りかかります。

家の中が荒らされる、好意を寄せてきた医者が溺れかける…

そして夜中にタイプライターで文書を打っていると、まるでパトリックが語りかけているような文字が…

心電図の針が大きく揺れたり、機械アイテムを使ったホラー演出が上手いです。

一体この超常現象は何なのか…

なんと心優しい看護師に惚れたパトリックが横恋慕し、彼女に近づく男性を排除している模様。

自分に危害を加える輩にやり返すならともかく、関係ない他人を平気で殺そうとするあたりこのパトリックかなり歪んだ喪男

パトリックが元々どんな男だったのか、それは冒頭のシーンから想像するしかないのですが、しかし冒頭地点から既に意識不明の現在と全く変わらない生気のない表情しか見えませんでした。

もうこの人は不遇の事故で昏睡状態になったというより、ずっと他人に心を閉し母親の代わりになる新たな依存先の女性が現れるまで100年の眠りについている…そんな身勝手男なのではないかと思えてきます。

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しかしこの映画がよく出来ているのは、途中「もしかして超能力を持ってるのはキャシー??」と不穏な気持ちにさせるところ。

離婚したいと一方的に別居を開始したというキャシー。本音では夫にいなくなって欲しかった…話しかけてくるチャラい男性医師もウザかった…

そんな彼女の精神状態がもたらしたものだと思うとめちゃくちゃ怖いです。

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キャシーの知らない数式がタイプライターで打たれたりラストの対決をみても能力はパトリックのものとみるのが筋でしょうが、結局パトリックの家庭環境もキャシーの元夫との関係もハッキリよく分からないまま話は終わります。

説明だらけのつまらない映画になるでもなく、かといって曖昧でもやもやした気持ちを残すわけでもなく、想像する余白を残しつつ恐怖を煽るのが良い塩梅で優秀なホラー。

最後のタイプライターでのやり取りには切ないもんがこみ上げてきます。母親を失っても死ねなかった「キャリー」の別の姿にも思えました。

 

看護師キャシー役の女優さんは万人受けする美女ではないかもしれませんが、意志のある強い感じが魅力的で劇中男性にモテるのもなんか納得。

パトリック役の男優さんは、台詞ゼロ、ずっと目を開けてなきゃいけないしこの役よく引き受けたなーと思いますが、動かない彼の迫力があってこそ、ここまで盛り上がったので名演技だったと思います。

キルビル」で昏睡状態のユマ・サーマンが唾を吐くのはこの作品へのオマージュなんだとか。

今回出たBlu-rayのメーカーさんは特典やジャケット仕様には力を入れないメーカーさんのようですが、ゴブリンが音楽を提供したというイタリア版の1部は収録されていました。(でもやっぱりこの映画には元の方がよかったと思う)

この機会に鑑賞できて嬉しいです。

 

「死のロングウォーク」、スティーヴン・キング作品で1番怖かった

1979年にスティーヴン・キングリチャード・バックマン名義で発表した長編小説ですが、大学生の頃に書き上げていたものらしく実質キングの処女作と言われています。

デスゲームものの走りであり、「バトルロワイヤル」の原型とも言われてますが、処女作とは思えない完成度。

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↑自分が昔図書館で手に取ったのはこんな表紙でこの絵だけでもう怖かった…

舞台は近未来のアメリカ。
少年100人が集められ、ひたすら南へ歩くという競技が行われていた。
レースにゴールはなく速度が落ちると射殺され、最後の1人になるまで続けられる…

走るのではなく歩くというのがこのゲームの怖いところ。

定められた最低速度は時速4マイル(6.4キロ)。ヒトが1時間で歩く距離が大体4キロだと言われているので、競歩まではいかない早歩きって感じでしょうか。

さらに、速度を下回るたびに警告を受け警告が4回に達すると射殺されるというルールがあります。

警告を受けてもいかに冷静でいられるか…走るという勝負なら単純な肉体の勝負になりそうですが、歩くとなると精神的な戦いになってきます。

食事も排泄も歩きながらするか警告時間内に終わらせなければならず、何日もぶっ通しで、睡眠も意識を飛ばしながら歩き続ける…

地獄としかいいようがなく読んでるだけで動悸がしてきますが、スタンドバイミー的な少年同士の友情、青春ドラマがここに交わるのがキングらしく圧巻です。

 

あえて友をつくらず攻撃的な態度で歩こうとする者は精神が持たず、ほとんどの者がグループをつくってお互い気遣いあったりして過ごす。

矛盾してるようですが、誰かに寄りかからないと続けていられず、他愛無い会話をしながら何とか正気を保とうとするのがリアル。1人がパニックを起こすとその不安が一気に伝染するあたりなど、集団心理の恐ろしさもまざまざと感じさせます。

加えて意外に思われるのは、ゲーム参加者たちが皆むりやり参加させられたというわけではなく全員志願者だということ。
(年代的に考えるとベトナム戦争を意識して書かれたもののようにも思われますが…)

貧しい家の生まれで賞金を目当てに参加する者がいる一方、主人公含め「参加せずにいられたのに参加した者たち」が多いことに驚かされます。

なぜ自分はこのゲームに参加したのか??レース中主人公が問う中で浮かび上がってくるぼんやりした孤独…

主人公ギャラティはメイン州出身でロングウォークのコースもメイン州ニューハンプシャーへと下る旅なのですが、行く先々森と畑と小さな街の繰り返しで同じ景色が続き、そのこともレース参加者の精神を疲弊させていきます。

アメリカの田舎町のじめじめした独特の空気感、逃れられない単調な人生への諦め…みたいなのは他のキング作品でもみられるものですが、レース中内省を繰り返す主人公と田舎町をひたすら移動し続ける風景が重なってえも言えぬ寂寞感が漂っています。


世界観の設定は緻密とは程遠く、なぜこんな競技があるのか説明らしい説明がありません。

レースに夢中な群衆の狂気は伝わってきますが、「バトルランナー」よりもずっとSF要素は低い。

・第2次世界大戦が長引きドイツがアメリカを空爆した
人口爆発していて産児制限がある
・反体制的な者は兵に連行される

散見される情報はあるものの、どんな未来なのかあまり伝わって来ず、この辺りは荒削りな感じもするのですが…

しかしそんな中途半端なところも全てが白昼夢のような不気味さを醸し出し、「レースはアメリカの競争社会そのものだ!」「辛いことがあっても歩み続けなければならない人生の縮図だ!」などと哲学を感じさせるような詩的さに昇華されているように思います。

 

そして何と言っても魅力的なのが仲間の面々。

ムードメーカーだと思われたオルソンの精神がいち早く崩壊し生きる屍となりながら歩き続ける姿には恐怖。嫌味で自分勝手な男に思われたパーカーが皆の心を1つにしようと兵に立ち向かう様には嗚咽。

ともに歩むことでその人間性を知り、心を交わし、別れゆく過程はある意味これぞ青春!という王道ストーリーになっています。

主人公を何度も助けてくれ反骨精神をみせるマクヴリーズはバトルロワイヤルでいったら川田っぽい??

「ひょっとして俺はお前に首ったけなのかもしれない。」

…なんて冗談めかした台詞もあったけど、極限状態で芽生える男の友情(以上の何か)にドキドキ。

自殺願望しかないマクヴリーズ、付き合ったら愛が重たく絶対に束縛してくるヤンデレさん。

誰とも交わらずしんがりを歩き続ける謎めいたステビンズはバトルロワイヤルでいったら桐山っぽい…と思っていたら…あと残り20ページかそこいらというところでビックリな事実が発覚。

この設定だけでもうひと展開出来そうなのに、もっと早く言ってくれーー!!という気もしました。

そっけないようで主人公には絡んでいっぱいお喋りしてくれるツンデレさん。

 

ラスト数ページの展開は意外なほどにあっけなく、けれど前半あれほど他者の死に沈みこんでいたのが、レースの終わりではすべての感覚が麻痺している…というところにリアリティを感じさせ、ラストの迸る狂気は圧巻でした。

死のロングウォーク」が恐ろしいのは、もうレースが始まった地点から皆の死は確定していて、その引き伸ばされた死の瞬間に浮かぶ孤独感…ある者は死を受け入れられないまま、ある者は家族を心の砦にして、そして多くの者は誰かに何かを掬ってほしいと願いながら去っていく…シンプルなお話の中にリアルな人生の死が詰め込まれていて、他のエンタメ系デスゲーム作品とは比べものにならない重たいものを感じました。

 

これまでに何度も映画化の話が出ていたみたいですがまだ実現していないようで…

www.cinematoday.jp

読むだけでいっぱいいっぱいになるので映像では見たくないような…小説にある人物の内面に迫るドラマが再現できるのか…と色々心配に思われてこのまま観れなくてもヨシな気もします…

読むとその恐ろしさに酔ったような気持ちにさせられますが、キングの凄さをひしひしと感じる1冊です。

 

「ジキル博士とハイド氏」…2重人格SMプレイに悶えるイングリッド・バーグマン

古い怪奇映画ですが、この作品に出ているイングリッド・バーグマンがエロいときいて…

もともと原作小説を大胆アレンジした32年の作品があるらしいのですが、ヴィクター・フレミングがさらにそれをリメイクしたのが41年度版。

デヴィッド・リンチの「ブルーベルベット」もこの作品に影響を受けていると言われているそうです。(そういえばイザベラ・ロッセリーニはバーグマンの娘)

昔読んだキネマ旬報のエロティック映画ベスト10にも入っていたので煩悩を全開にして鑑賞。

 

スペンサー・トレイシー演じるジキル博士は優秀な医者として知られ、人間の凶悪な部分を薬で除去するという研究を続けていました。

「世の中善人と悪人がいるわけではなく、1人の人間の中で善と悪が葛藤しているのだ」と語る博士。

しかし人体実験のため自らに薬を投与したところ、人相が激変、凶暴なハイド氏に変身し、悪行の数々を繰り返すようになってしまいます。

こんな話だっけ、多重人格がテーマというよりマッドサイエンティストの悲劇、怪物映画の要素が強いと思いました。

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博士の顔がゆーっくりと変わっていく特殊効果の映像はこの時代にしては頑張っていると思ったけど、基本ジキルのときも頑固な偏屈男にしかみえず、もっと線の細い、神経質な感じが欲しかったかなー、SとMのギャップが足りんように思いました。

ジキル博士には清純で可憐な恋人がいましたが、街で見かけた娼婦に惹かれて彼女を囲って虐げるようになります。

なんと恋人役がラナ・ターナーで娼婦役がバーグマン!!

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どう考えても逆!!というキャスティング。なんでもバーグマンが自分の聖像的なイメージを壊したいからこっちの役がしたいと直談判したのだとか…

奔放で理性のない女性をハイドがいいようにするというのが話の筋だと思うのですが、どうみてもバーグマンに知性と気品が漂っていて前半は違和感しかありませんでした。

しかしハイド氏に迫られる場面での怯えた表情が艶かしく、こちらの神経もすり減るような弱々しさにこれはこれでアリなのか…という気持ちに。

背中につけられた傷を同僚から隠すバーグマン、歌を歌えと命じられ泣きじゃくりながら歌うバーグマン…

41年の古い映画なので直接的な性描写はもちろんないのですが、みえないことで逆に想像を掻き立てられるようなエロスが存在していました。

表面上は親切な医師のジキルに惹かれつつも、どこかハイドを待ちわびているようにみえてくるバーグマンにドキッ。

彼女があっさりと途中退場してしまうのは非常に惜しく、2人の倒錯的な関係をもっと見ていたかった。

表の中にある裏と裏の中にある表と、最後にバーグマンが全て呑み込んで2人泥沼に沈むように結ばれる…そんな話がみたかったです。

 

肝心の豹変っぷりがイマイチで多重人格モノとしては物足りないですが、薬の力で変身するはずの博士が恋人との婚約パーティーに向かう途中、お薬なしで突然ハイド氏に変身。

「もっと遊んでいたい」という身勝手な心がスパーキング!!

恋人の義父が口うるさい男で、ラナ・ターナーとなかなかイチャイチャさせてもらえないという場面もあったので「こんな義実家で苦労しそう」と気の毒に思う面もありました。

 

また本作で最も有名なシーンはジキル博士が変身する際に見る幻覚で、男の欲望がイメージ映像となって現れるのですが、バーグマンとラナ・ターナーの2人を馬にみたててムチを振るうシーンは公開当時刺激的だと話題になったそうです。

個人的にはもう1つの幻覚シーン、女性たちが瓶の中に閉じ込められていて、ボトルのコルク部分がバーグマンの頭部になっていてその首が吹き飛ぶ…という場面がショッキングでした。(恐怖奇形人間かよ)

全体的に落ち着いた昔の映画なのに、幻覚シーンは暴力性に満ちた男の脳内を表現の限界に挑んで再現した感じがして、完全にホラーでした。

 

昔「鬼畜眼鏡」というBL作品があって、メガネをかけると主人公の性格がドSに、メガネを掛けないままだとドMの性格のままお話が進んで…というのがありました。

さすがジャパンと思ってましたが、ハリウッドはこんな昔からずっと先を進んでいたんですね。

女性は1人も登場しない原作小説を大胆にアレンジ、別人格=性の欲望にしたのが良かったと思います。

バーグマンだけで見応えがあり、エロティック映画ベスト選出にも納得でした。