どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「マッキラー」…フルチとは思えない!?深く隙のない骨太傑作サスペンス

2021年はフルチ没後25年ということでBlu-rayが出たり限定上映があったり配信がスタートしたりとこれまで観れなかった作品をみれるチャンスに満ちた1年でした。

今回ニューリリースの対象になっていないタイトルですが、「サンゲリア」以前にフルチの名を世に知らしめたといわれる「マッキラー」という作品があるそうで…

ここまで来るとどうしても気になってしまい2016年にリリースされたBlu-rayを購入し初鑑賞。

最高傑作と名高いのにも納得、「これホントにフルチが撮ったんでしょうか…」と思わず問いたくなるような、予想外に格の高い圧倒の作品でありました。

 

古い迷信と因習が色濃く残る南イタリアの田舎町にて少年ばかりを狙う不可解な連続殺人が発生。
容疑者となった女呪術師マッキラーは怒りに燃える住民たちから壮絶なリンチを受けて惨死するが、事件はまだ止むことはなかった…

72年の作品でオカルト要素のないジャーロもの、推理サスペンスとなっています。

冒頭田舎町を横切る高速道路の景色からして圧巻。

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北部から来た娼婦たちを引き連れて小屋で情事に耽る大人たち、それを覗き見する子供たち…

何もない田舎町の荒涼感をまざまざと感じさせ、このぶっ飛んだ景色が格差の激しい南部と北部の隔絶を見事に表しているようです。

事件の容疑者として捜査線上に浮上するのは、知的障害の男、北部から来たよそ者の金持ち娘、ジプシー女性マッキラーと町の除け者たちばかり。

真偽も確かめぬまま噂に翻弄され怒りの矛先を変えては他人を攻撃する町の人間の身勝手さが最も恐ろしいものとして描かれています。

マッキラーが町の男たちにリンチされる場面では、陽気なロック音楽〜美しいバラード曲をBGMに壮絶な暴力が振るわれます。

鎖で鞭打たれ削ぎ落ちていく骨肉の描写は「ビヨンド」にもありましたが、リアリティを帯びたグロ描写の痛々しいことといったらこの上ないです。

実はアリバイがあり無罪だったマッキラー、しかし本人自身は呪殺したつもりで子供たちに明確な殺意はあったというのがまた何ともいえない陰鬱さ。

亡くなった奇形の赤ちゃんが皆と同じお墓に入れず見晴らしのいい丘に遺体を埋めた…けれど町の子供たちがそれを掘り起こして注意しても聞かなかったから激怒した…

子供たちも決して善なる存在としては描かれておらず、大人たちが疎外しているマッキラーを同様に侮蔑するに至る「差別の継承」が描かれていると思いました。

主役かと思われたマッキラーは退場し、もう1人のキーパーソンとなるのが北部から来た美女・パトリツィアですが…

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全裸で少年を誘惑、オレンジジュースを裸体に溢していくドキドキプレイを披露。

「綺麗なお姉さんに誘惑される少年羨ましい」ってシチュにみえがちですが、もし男女逆パターンだったらどうなんでしょうの完全にアウトな状況…麻薬をやめられない小児性愛の女性で彼女もまた善人とはいい難い存在です。

通常のジャーロだと探偵役になりそうな新聞記者マルテッリ(トーマス・ミリアン)が終盤このパトリツィアとタッグを組んで事件の真相が明らかになっていきますが…

(以下ネタバレ)

それっぽい雰囲気とフラグはあったので決して意外性のある犯人ではありませんでしたが、「子供たちが穢れた存在になる前に殺して救ってあげる」…

純粋潔癖ゆえの全力の生の否定、且つそれでいて自分が良いことしてると思っている…ジーク・イェーガーとプッチ神父足したような厄介極まる敵でラスボスの風格に満ちた奴でした。

この犯人も少年愛っぽい雰囲気&でも決定的な描写はない…って感じでしたが、当時は神父=犯人というだけでカトリック教会を暗に批判した内容だと受け取られたのでしょうか…
先のマッキラーの処刑場所も散乱した墓地だったりと〝信仰の死〟を描いたような節があり公開時に物議を醸したというのには納得です。

元は父親の浮気で家庭が崩壊、聴覚障害を持った妹も疎外されている…と町から生み出された悪感も漂っていてよかったです。

断崖絶壁にて追い込まれるところはまさに火サス…!!…からのまさかの肉弾戦…!!

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↑妹役の子の演技が上手い!!唯一無垢な存在なのが切ない(泣)

ラストは「ザ・サイキック」にもあった落下顔面破壊シーン。顔はどうみても作り物だけど、残酷な死とともに穢れない神父の胸の内が吐露される対比が凄まじく今みても斬新でした。

♫エーアーアーという耳に残る旋律がオープニングとエンディングとで景色を同じくしてか掛かり、「排他的な町だけはそのまま」という絶望感を湛えて終わるところも凄みを感じさせる幕引きです。

音楽は「女の秘めごと」でもフルチとタッグを組んでいたリズ・オルトラーニ

メインテーマも暴力シーンでかかる物悲しいボーカル曲も耳に残り音と映像のシンクロがばっちり。

カメラを斜めにした不穏なショットなども印象的で、被害者が子供ゆえに殺人シーンは極めて控えめなものの死体発見までの画に工夫が凝らされていると思いました。

何よりイタリア南部マンフレドニアの眩しくなるような白い街並みとドラマの暗さが強烈なコントラストでロケーションが圧巻です。

ミステリものとしてみると最後の記者の推理がやや唐突で多少粗はありますが気にならない程度。

〝異国に来て殺人事件に巻き込まれる主人公視点〟が一貫している「サスペリア2」などと比べると、この「マッキラー」は誰が主人公なのかハッキリしないまま目まぐるしく視点が切り替わり話が進みますが、それもミステリの構成としてきちんと成立しており善人不在の客観視点でのドラマが陰鬱みを際立たせていました。

俳優陣はやはりマッキラー役の女優さんの演技が1番凄かった…!!

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怒り狂った表情や高速道路で力尽きる姿などもう個人的にはアカデミー賞級でした。

主人公はマッキラーではないし原題もマッキラーじゃないしマチェーラって発音だったけど、なんかマッキラーって口に出したくなる言葉の響きですね(笑)。

B級ホラーのフルチ好きだけどこんな映画も撮れてたなんて凄い…!!(そしてこれをみると後期が凋落とか言われるのも分かる…)圧倒の作品でした。

 

「新デモンズ」…特殊効果とロケ地は優秀、フルチ晩年期オカルトホラー

正式な続編は「デモンズ2」まで、アルジェントが制作チームに入っているのは「デモンズ4」まで…その後もランベルト・バーヴァやミケーレ・ソアヴィが関わりつつ6まであるデモンズと名の付いたシリーズ。

ルチオ・フルチが90年に監督したこちらの「新デモンズ」もオリジナルと全く関係ない代物でビデオ会社が便乗して名付けたものだと思われますが、これ系観る人間は限られるのでもう何でもいいか…むしろ嗜好を汲んでくださって有難うございますなタイトルなのかもしれません(笑)。

 

1486年シチリア
魔女狩りのような雰囲気の中修道院にて5人の女性が磔にされ処刑されてしまいます。

全員修道服を着ているため誰が何なのかサッパリ分かりませんが、女性の額には?な刻印があるのでおそらく修道女たちの方が悪魔信仰の異端者。

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釘を刺されるゴア描写は「ビヨンド」にて画家が処刑されるシーンと重なるオープニングです。

その約500年後の現代…カナダから来たライザとポール夫婦は発掘調査のためシチリアを訪れていました。

町の頂にある古い廃墟の修道院に心惹かれるライザでしたが、迷信深い地元住民は過去の遺物を掘り出すことを良しとせず調査に苦言を呈します。

警告を振り切り修道女たちのミイラを発見するライザ。
すると何かが目覚め次々と人々が謎の死を遂げていきます…

ストーリーは黄金期フルチに立ち戻ったような王道オカルトホラー。

過去に殺された修道女たちが地元住民(子孫)に復讐する話なのかな…過去からは逃れられない壮大な因果律とアンチキリスト的テーマを孕んだ一大傑作…!!

…になるかと思いきやなぜか殺される面々の殆どはよそ者の発掘者チーム(笑)。

脚本は一貫性なく支離滅裂ですが、90分で6人の犠牲者を出すそのゴア描写は中々力が入っており、フルチ映画に馴染みのある面々が登場。ファンには楽しめる1本になっていると思いました。

1人目の犠牲者は遺跡発掘者仲間のポーター(サンゲリアに出演、ビヨンドで死体に脳波計つけてたアル・クライヴァー)。
修道女の亡霊にボウガンの矢で刺されるという霊攻撃なのか物理攻撃なのか全く意味不明な殺され方で死亡。

2〜3人目は遺跡発掘を手伝っていたアイルランド人2人組。
夜中修道院を探索中にインディ・ジョーンズのような罠にかかって死亡。

4人目はライザと同じく過去を霊視できる町の占い師(クロックのおばちゃんメイド、雰囲気あるお顔のカーラ・カッソーラ)。
飼い猫に襲われ目を抉られ死亡、フルチ映画あるあるで1位にきそうな死に方。

5人目の犠牲者は「町の秘密を暴くな」と警告してた肉屋のテューリ(ホラーハウスの犯人役リノ・サレム、イタリアンなイケメン)。
冷凍室にて吊るされた豚肉に襲われ、現れた修道女に舌を釘で刺されて死亡…舌が長すぎるけどこのシーンの特殊効果もよく出来てます。

6人目の犠牲者は遺跡発掘チームの一員ジョン。
連れ去られた息子ロビーを追いかけてるかと思いきや次のカットではなぜか自身が縛られてて股を引き裂かれて真っ二つになり死亡。特殊効果炸裂のゴアシーンですが前後の繋ぎがめちゃくちゃすぎて頭が追いつきません(笑)。

最後に犠牲になるのはライザの夫ポール…(イノセントドールでドM医者を演じたブレット・ハルゼイ。あんな目にあってもまたフルチ映画に出てくれるなんてきっといい人)

…かと思いきや夫は死なず、ラストには修道女に取り憑かれたライザが地元住民に追い立てられ火炙りに…するとライザの肉体が離脱して亡霊だけが再処刑…??

主人公が助かったのかそうでないのかもよく分からない終わり方で、そもそもライザと修道女の接点が何だったのかもサッパリ分かりません。

見せ方次第では閉鎖的な町の住民の狂気を描いたり、異端迫害を追及するようなもっと深みのある映画になった気もするのですが…

修道女たちが被害者なのかと思いきや、過去の霊視描写をみると散々乱行に走った挙句生まれた赤ちゃんを火炙りにするなど紛うことなき鬼畜集団でこれには冒頭の処刑もやむなし、となってしまいます。

主人公夫妻には冷たい空気が流れており、ここももっと掘り下げれば迫害された過去の女性達のドラマとリンクしてすんごい深い話が展開できたような気もしなくないけど、そういう「サスペリア2018」みたいなの観たいかと言われればそうでもないような気もする(笑)。

お話はともかくとして特殊効果は全盛期には及ばずとも見所がある出来栄えとなっており、舞台になっているシチリアのカルタべッロッタでのロケ映像も美しいです。

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山と海に囲まれた白い家の連なる街並みだけで抜群の異世界感。

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古代ギリシャ遺跡のような野外円形シアターにてライザ・ポール夫妻が夢で交信する幻想的な場面も美しく、ロケーションのよさだけでゴシックホラーとして充分成立してると思いました。

フルチ自身も警察役で出演、制作費節約のためだったのかもしれないけどいつもよりかなり出番が多い(笑)。

黄金期の作品のような覇気はないけど意外に好感度は高い作品でした。

 

「女の秘めごと」…フルチのめまい、落ち着いたお洒落雰囲気ジャーロ

ホラーのイメージが強いルチオ・フルチ監督ですが、元々コメディ出身→マカロニ・ウエスタンを経てサスペンスをヒットさせたという経歴。

キャリアの転機となった初挑戦のジャーロもの(イタリア製サスペンススリラー)が69年公開のこちらの作品。

舞台がサンフランシスコ、死んだ妻にそっくりな女性に翻弄される主人公…と明らかにヒッチコックの「めまい」を意識したつくりの本作。

サンゲリア」のフルチがフルチだと思ってみるとカラーが違いすぎてびっくりですが、後続の作品との共通点も窺えて楽しんでみれる1本でした。

 

主人公はちょいアラン・ドロン似なイケメン医師・ジョージ。
兄弟で営んでいる診療所は赤字の連続で誇大広告を打っては客寄せ、病弱な妻を放置して愛人と絶賛不倫中…と絶妙に感情移入しにくい主人公です。

ある日妻スーザンが発作で死亡、100万ドルの保険金が入り込むことになりますが警察から殺人を疑われます。

その後謎の電話の指示に従いストリップクラブを訪ねるとそこには死んだはずの妻にそっくりな女性が…
妻本人かと疑ったジョージは彼女が本物か確かめようと身体を重ねますが…

冒頭、ジョージが新米看護師に妻の服薬を指示する場面は「主人公が殺人を謀っているような匂わせシーン」にみえましたがその後特に活きてこず…
探偵役が突然主人公の愛人に交代したりと視点もはっきり定まっておらず、巻き込まれ型サスペンスとしての吸引力は弱め。

謎のストリッパー・モニカは髪の色と瞳の色以外は全てが妻と同じらしく、ここで目のアップが強調されます(笑)。

音楽は「怒りの荒野」のリズ・オルトラーニが担当しており、ストリップシーンでもかかるジャジーなメインテーマ曲は雰囲気満点。

愛人女性がモニカを問い詰めるレズっぽいドキドキシーンなども挟みつつ、「実は妻と愛人が手を組んでるパターンかな…」と思っていたら意外な方向に転がっていきました。

(以下ネタバレ)

実は妻は死んでいなくてストリッパー・モニカと同一人物だった…新米看護師を殺して死体を入れ替えていた…

DNA鑑定がない時代だからこそできる所業!?
替え玉女性の方はいなくなっても誰も探さなかったのかしら、亡くなった扱いのスーザンのパスポートはまだ使えるのかな…など細かいところは考えてしまうと気になります。

妻の死体と対面するシーンは「サスペリア2」っぽかったです。一瞬よぎった違和感をぬぐえない主人公…

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そっくりなモニカを抱くシーンでこの場面がフラッシュバックするところは変態プレイをみせられてる気分(笑)。

妻だって気付かんもんかね…と思っちゃうけど亡くなっても遺体も碌に見ず、抱いてもわからんくらい愛情のない夫婦だった…ってことでしょうか。

首謀者が妻と不倫中の兄というのも意外な展開で、甘ちゃんイケメンの弟に対しパッとしない苦労人兄の対比もよく、姉妹ならぬ兄弟の愛憎劇ってあまりないパターンで面白かったです。

ガス室送り手前となった主人公、愛人の女性が手掛かりを掴んで助けてくれるのかと思いきや、思わぬところから真相が明るみになります。

ストリッパー・モニカに夢中になった客がひっそり彼女をストーキングしており、兄と逢瀬している現場をみて激昂し2人を射殺…それによって身元が明るみに出て奇しくも無罪が証明される主人公。

それ本筋と全然関係なくね!?っていう無理矢理伏線ねじ込んだような展開でしたが、悪巧みした悪人はしっかり処刑され、個人の努力でも何でもない思いがけない偶然に人の運命は転がされている…

こういう運命論みたいな描写は初期の作品「ザ・サイキック」や後期の作品「クロック」などにも共通していてフルチらしいテーマなのかなと思いました。

ラスト主人公自身を一切映さずにテレビのレポーターに顛末を語らせるという奇抜な演出も、その冷めた俯瞰視点に妙な寂寞感があってよかったです。

女優さんは妻役愛人役ともに美しく、ストリップバーのサイケな雰囲気やサンフランシスコのロケ地も含め大いに目で楽しめる作品でした。

 

「マッドライダー」…イタリア製マッドマックス、チープの極みでも煌めく個性

フルチ作品をかつてないほど鑑賞している今年の秋、こうなると制作スタッフの名前も気になってきて、フルチがよく組んだ脚本家の1人としてダルダーノ・サケッティという人物がいるようです。

サンゲリア」「ビヨンド」など黄金期の作品には皆この人の名前がクレジットされていて、アルジェントの「わたしは目撃者」や「デモンズ」シリーズの脚本も担当している…

イタリアンホラーみてると脚本には複数の名前が載っていることが多く、原案だけ別の人だったり「このシーンはこの人の担当」などと振り分けられていたり、撮影がゴタゴタして当日その場で書き直したり…と想像もつかないような世界ですが、これだけの作品に関わっているのはすごいですね。

他にはどんな作品を書いてたのかしら…と調べてみたところとても楽しそうな作品が…

マッドマックス2」が81年、この「マッドライダー」が83年と旬のものを取りこぼさないスピード感が相変わらず凄い(笑)。

原題はExterminators of the Year 3000、エクスタミネーターとデスレース2000を足したようなタイトルが既にうるさいですが、舞台は西暦3000年。

核戦争後の荒廃した地球では雨が降らなくなりこの世界では石油ではなく水が枯渇していました。

生き残りの人々が暮らすコロニーに住む少年・トミーは水を探しに行った父親が帰って来ず、その捜索の旅に参加。しかし暴走族軍団に襲われ水源地の地図を片手に1人荒野を彷徨うことに…

そこで一匹狼のエイリアンと出くわし彼と協力関係を築くことになりますが…

マッドマックス2」では言葉を交わさないマックスと少年のやり取りに感動がありましたが、この2人は普通によく喋ります(笑)。

そして主人公エイリアンは一匹狼どころか平気で嘘をついてはコロコロ態度を変えるかなりのクズで、少年の方が落ち着いていて大人という予想外の関係性です。

この2人に暴走族グループ、主人公の元恋人の峰不二子的ヒロイン、メカ博士なども加わって水源地を巡ってのバトルが展開。

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主人公と敵チームは基本マッドマックスな衣装してますが、コロニーのメンバーが着ているのはユニクロでも売ってそうな質感の服…
武器も主人公はレーザー銃なのにヒロインはクロスボウだったりと文明の度合いがバラバラ(笑)。

どこにでも侵入できる超音波キーなんてのも登場しますが……あれ、もしかして私、超音波聴こえてる??……ツッコミどころには事欠きません。

ロケ地はマカロニウエスタンでよく見るような荒野が広がっているのでスペインかと思われますが、一応本作もカーアクションシーンが見せ場となっています。

主人公の乗る自称800馬力のスーパーカー、原題にもなっているエクスタミネーター号が今作の華!?

鉄の窓で覆われモニタ越しで外をみれる戦隊モノのような雰囲気の車はみていて楽しいです。

敵の車は頑張って汚して何とか荒廃感出しただけのシロモノだったり、チェイスシーンは総じてスピードが全く出ていなかったりと安い作りの作品ではありますが、太陽光パネルを模したと思われる水施設をミニチュア模型で再現するなど、イタリアのハンドメイドの良さがひしひしと伝わってくる所もあります。

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↑一応それっぽい画は撮れてる(笑)

 

さて、パクリ映画だと思って油断してると予想もつかないびっくりシーンが用意されています。(以下ネタバレ)

敵の軍団に囚われ、腕引き裂きの刑に処される少年トミー。

子供だし助かるだろうと思ってみてたら吹っ飛ぶ腕…血の気がひいたその瞬間なんとこれが義手…少年片腕サイボーグだったのかよ!?

荒廃未来の技術の進歩具合が謎すぎます。

さらにガジェットおじさんパピヨンがこれを修理改造し怪力アームを手に入れるトミー。

石ころを拾っては獣の巨人のような見事な投擲で暴走族軍団の車を次々に破壊するという予想外の展開には呆然となります。

さらに驚くべきはラスト、主人公勢が水をコロニーに持ち帰ってハッピーエンドかと思いきや、せっかく給水したタンクから水が溢れ落ちて空っぽになってしまいます。

まさに「怒りのデスロード」な行って帰ってくるだけの旅…再び水を汲もうと水源地を訪れると今度は施設が狂信者によって爆破されてしまいます。

泣き崩れるトミー少年に加えて主人公エイリアンの目からも涙が…

あれだけ冷たい男だった彼がなぜ泣いたのか…自分も欲しかった水が消えてただ悔しかったのか、トミー少年の心に触れて彼自身も未来に希望を持つようになったからなのか…なぜかは分かりませんが何だかこっちもうるっと来てしまいます。

すると突然空から雨が…
抱き合う主人公と少年とヒロイン…

なんかすっごいいいラストだなー。

神様の恵みの雨みたいな、考えようによってはかなり寒いぶん投げラストなのですが、少年が初めて出会う雨、ただ報われなかっただけの徒労感からの大逆転、クズ野郎の涙…と謎にエモーショナルなシーンで最後は意外にもじーんとなります。

時代を先駆した一級品である本家マッドマックス1・2と比べるのは大変失礼にあたるのは間違いありません。

けれど「イタリア人がマッドマックス1の予算でマッドマックス2を無理やり撮ったらこうなったよ」的なほんわか目線でみれば充分楽しめる作品ではないかと思いました。

 

監督はマカロニ・ウエスタン出身のジュリアーノ・カルニメーオ。

脚本には3人の方が参加していたようですが、ダルダーノ・サケッティとともにエリサ・ブリカンティという名前もクレジットされています。

この方はなんとサケッティの奥さん…!!サンゲリア」「墓地裏の家」もサケッティと一緒に手がけているという素敵ご夫婦でした。

単なるパクり、2匹目のどじょうでは終わらないミラクルなオリジナリティ顕現は他のジャンルでも健在、C級でもなぜだか光るものを感じてしまう1本でした。

 

「怒りのロードショー」…好きなモノがある幸せ、映画愛炸裂のハイテンションコミック

たまに訪れる大きめの本屋さんにて「映画を語る漫画」みたいな特集がされていて、そこで初めて存在を知ったのですが、ネットではかなり前から話題になっていたようです。

映画好き男子高校生4人が各々好きなモノを語る…

1巻表紙の雰囲気よろしく「これ系映画」によい意味で傾いていて、凄まじいまでのタイトルの羅列、サラッと入ってくる台詞の引用にニンマリさせられたりと、好きな人間にはたまらない作品でした。

知らない間にザ・ファイナルと銘打った3巻が夏に発売されていたようで…遅まきながら購入し全巻改めて一気読みしました。

映画好き高校生4人のキャラが濃い…!

主人公・シェリフはアクション映画好き。

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4人の中で観てる本数は1番多いけど内容を忘れてることも多い(笑)。
好きな映画は「コマンドー」「ランボー2」「ブラインド・フューリー」などなど。バットマンはバートン派。

個人的にストライクゾーンが1番重なりそうなのはホラー映画好きのごんぞうですが…

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「走るゾンビは好まない」など好き嫌いがハッキリしていて主張がいちいち的確で鋭い。自分みたいなフワッとしたファンとは解釈違いが多々ありそうで話し掛けるには勇気いりそうです(笑)。

ホラー以外のお気に入り作品が「ET」っていうピュアなところも〝らしい〟感じがして、好きなモノから透けてみえるキャラクター像が面白いです。

トークを1番盛り上げてくれるのは意外、にわか映画ファンのまさみ。

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「最高の映画監督はノーラン」「スターウォーズは新三部作しか知らない」…大概映画好きっていったらこんな感じだよね、というライトファン。

実は1番好きなのはプリキュアというアニメオタクで、クラスのアニメ好きグループとも交流がありつつ仲良くしているのはシェリフたち…

「何が好きか」じゃなく気の合う人間を自分で選んでて大人、時にアニオタキモいと家族に迫害されながらも自分が好きなら万人に理解されなくてもいいと胸を張ってるまさみ、カッコええです。

もう1人、何ファンなのかよく分からないヒデキは1番謎めいてました。

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シェリフやごんぞうの会話に難なく付いていけるくらい知識があるのにホラーだけは絶対に観ない…

ホラー嫌いでも「映画の見方は人それぞれ」と決して他人の好きなものを貶めたりしない紳士でもあります。

 

学校以外にも町のビデオ屋さんが登場して21世紀とは思えないノスタルジーな雰囲気が爆発。

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↑客も濃すぎる(笑)

冴えない店長になぜかゾッコンのナカトミお姉さん。「トゥルーロマンス」のアラバマ(幻想)かな…

店長のおススメ作品は、「紳士協定」「ディアハンター」「野良犬」「カッコーの巣の上で」…

きっと真面目ないい男なんでしょう。

 

平和な漫画かと思いきや作品には主人公たちの最大の宿敵!?村山というキャラクターが登場します。

テーマやメッセージ性のない作品はダメだとボンクラ映画の存在を真っ向から否定、唯一認めるのは黒澤明キューブリック

人の好きな作品を悉く否定する悪鬼のような男…

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村山くんもすごい映画好きで詳しいんだろうけどインテリシネフィルっていうか観てる映画自分とは5%も被らなそう…近くにいても怖くて話しかけられないっす。

作品をどう批評するかは自由というのはその通りだと思うし、スピルバーグ批判のところはなんか分かるわーと、余りの言いたい放題に拍手を送りたくなりました。

シンドラーのリスト」と「プライベートライアン」と「ニューシネマパラダイス」、自分も好きじゃないなあ(笑)。

観てない映画まで「観なくてもクソ」とボロカスに言い出すあたり悪役極まってますが、自分も一方的に偏見めいたものもって避けてるジャンルとか作品っていっぱいあると思う。

最近の映画って質落ちてない!?とか碌に観もせずに思ってたりするの村山くんと一緒だよなーとすごい共感できるキャラでもありました。

そんな村山くんの最終巻の姿にはビックリ。

まったくのゼロからモノを創作する仕事って自分もしたことがないけど、本当にめちゃくちゃ大変なんですね…

プロの仕事じゃない趣味でやってる同人誌とかでも1人で全部こなして1つのものを形にするって物凄い労力とエネルギーだと思う。

そして人から評価を受けることの厳しさ、これも創作者は1人で全てを背負わなくてはならない。

自分でモノをつくる視点に立ってみてはじめてこれまでと違った映画の見方をするようになる(=作品のいいところを探すようになる)村山くん。

この漫画毎回各話のタイトルが最終ページにインサートされるつくりになっていてそのタイトルが秀逸、まるで映画のエンドロール見送ったような気持ちになる神回が何回かありましたが、村山くん回も神回。

最終話はめちゃくちゃいい顔しててしかもツンデレかよ!!と胸がときめいてしまいました。

 

クラスのミーハーなファンが「パイレーツ・オブ・カリビアン」に湧いててなんか面白くない主人公勢、めっちゃ分かる。

小さい頃から親の影響で洋画ばっか観てて同級生と好きなものを思う存分語れないステイシーちゃん、めっちゃ分かる。

リア充のオタクの拗らせ感情みたいなの自分もこんな学生時代だったわーってすごい共感してしまいました。

趣味も気も合う人って出会えたらラッキーだけどそんな出会いはなかなかないんだよね…でもシェリフたち4人もまさみをはじめ皆実は趣向が違ってるけどお互い尊重して布教しあってたり、好きが一致してるわけじゃない他のクラスメイトともちゃんと交流して認めてたり…皆落ち着いてて優しいなーと思いました。

映画に限らず好きなものをもってるっていうのは皆一緒だったりして場所を選んで表に出さない人も多いのかなと大人になると思います。

 

「コナンみるとガンダムがみたくなる」…イケメンハンター・プッチちゃんも大いに共感させられる好きなキャラでした。

きっかけはなんでも良くて、思いもよらない作品に出会えた時の喜びとか、繋げて別の作品を追いかける楽しさとかそういうのが伝わってきました。

分からない元ネタはたくさんあって特にガルパンの回は何やってるのかさっぱりだった(笑)。けど主人公の戦車映画解説が楽しくて熱量と勢いで笑って読めてしまいました。

最終話は洋画離れへの懸念など寂寞感も感じられましたが、最高のタイトルで締めくくられていて〝逆襲〟が待ってたりしないかな…期待してしまいます。

尖ったサブカル漫画と思いきや意外、好きなモノ・好きな映画があるって幸せだなーとすごく爽やかな気持ちになる作品でした。

 

「ホラーハウス」…モンスターチャイルドもの!?ぼんやり空回りなフルチ

うーん、これはかなりイマイチ。

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89年にテレビ映画として制作されたルチオ・フルチ監督によるオカルトホラー。

昔ビデオで観たはずなのですがあまり印象に残っておらず、改めてみてもよっぽど予算がなかったのかなあと衰えを感じる1作でした。

郊外の館に住む仲のいい4人家族。
しかし嵐の夜に両親が強盗に惨殺されてしまいます。
伯父伯母夫婦が子供の面倒を見るため越してきますが、館のあちこちでポルターガイスト現象が…!!

冒頭は目玉飛び出しなどフルチらしさを感じさせる仕上がり。殺人シーンでやたらノリのいいBGMが景気良くかかるあたりもイタリアンホラーっぽいです。

黒装束の犯人を追うジャーロものになるかと思いきや、早々に犯人は〝らしい〟人物が登場しその復讐はあっさりと果たされ、物語は残された子供2人、男の子ミッチと女の子サラの視点で進みます。

親の葬儀中にも笑い出すわ、家の下見に来た太っちょの不動産屋をバカにするわ、躾がなってないを通り越して不気味にみえる子供2人。

かと思えば親がいなくて寂しいと突然泣き始めて霊と交信する儀式めいたものをはじめる…大人からみれば理解し難い子供の行動も、子供は子供なりの方法で悲しみを昇華させようとしてるのでしょうか…

フルチの過去作では「地獄の門」のラストにいきなり子供がゾンビ化したり、「墓地裏の家」で子供の言うことを信じなかった親が処刑されたり…とありましたが、大人と子供の隔絶、モンスターチャイルドもの的要素を感じさせるストーリーではあります。

果たして怪奇現象は子供の幻覚が引き起こしているものなのか??…ちょっぴり思わせぶりな演出もみせつつ、普通に死んだパパとママの霊体が出てきて最後はポッと出のエクソシストとの対決という盛り上がらない展開。

どうみてもエクソシストの方が悪人顔、悪霊の方が家族愛に満ちてる…こういう所をフルチらしい反骨精神と取ればいいのか、けれど全体的には退屈でかなりビミョーな出来栄えでした。

何より肝心のポルターガイスト現象がお粗末で最後のクレーン車が操られた…!!のシーンは狙ったうえでのドタバタコメディ調なのか、よっぽど予算がなかった末の工夫なのか観てて戸惑いました(笑)。

同じテレビ映画でも「クロック」は世界観が確立されていてよかったなあ。

余程のフルチ好きにしかオススメできないなかなかシブめの1本でした。

 

「怒霊界エニグマ」…フルチ版キャリー!?サイキック少女のトンデモ復讐劇

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88年公開、ルチオ・フルチ監督のオカルトホラー。

昔ビデオで観た際にはまあまあなB級って印象でしたが、今みたらアレ結構いい映画じゃない!?…(感覚麻痺してきてんのかな)

いじめが原因で昏睡状態に陥った少女が転校生に憑依し復讐を開始する…今回は「キャリー」と「パトリック」が混じったようなプロット。

オープニング、懐メロテイストな洋楽と共にドレスアップしていく少女・キャシーの姿。
まさにこれからプロムに行くキャリーって感じですが、なんとデートの相手は学校の教師。

実はこれは仕組まれたデートで裏ではクラスメイトたちがその様子を盗聴、種明かしした後に皆でキャシーを笑い者にして追い詰める…イジメ胸糞すぎるし、グルになってる男教師が畜生すぎます。

動揺して道に飛び出したキャシーは車に轢かれて昏睡状態に…

その後に学校にはエバという転校生がやって来ますが、知っているはずのないキャシーの記憶を持っている様子。
その身体にはキャシーが憑りついていました…

普通に考えたら関係ないエバちゃんめちゃくちゃ被害者ですが、転校早々「男紹介して」とクラスメイトに迫るビッチな姿に同情心は自然と薄らいでしまいます。

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エバ役のララ・ラツィンスキーはナスターシャ・キンスキーの従姉妹。迫力ある美人でハマり役…!

しかし肝心の乗り移り設定がストーリーにあまり生かされず、結局エバを介さない超常現象でクラスメイトたちが殺戮されていくあたり安定の雑な脚本。

その代わり女子校独特の閉鎖的な雰囲気はよく醸し出されていてホラーと相性ぴったり。女生徒は可愛い女優さんが多く皆それぞれ印象を残すキャラになっていました。

特に各キャラの部屋に飾ってあるポスターの演出がオモロイ。

いじめの主犯格・キムの部屋に飾ってあるポスターは「トップガン」のトム・クルーズ

分かりやすいイケメン好きミーハーってとこでしょうか。

ドアを開けては次の部屋がまた自分の部屋…を繰り返す四畳半神話大系のような恐怖を味わったあと、トムのポスターに浮かび上がってきたキャシーに追い詰められ転落死…ここだけ観たらトム・クルーズに呪い殺されたみたいな謎すぎる死に様を迎えます(笑)。

学校一の尻軽女と呼ばれるグレースの部屋に飾ってあるポスターは「ロッキー」のスタローン。
よくみるとクリストファー・ランバートのポスターも…??

個人的にはめっちゃ友達になりたいですがコイツもいじめ加担者。

全身カタツムリに覆われ窒息死というVHSでも一押しされていたインパクト大な死を遂げます。ここはフルチ版「フェノミナ」って感じ。

その他のクラスメイトも夜の美術館で展示品に襲われるなど印象的な死に方で、おそらく相手が潜在的に苦手なものを幻覚に投影して殺しているようです。

乗り移り設定どこ行ったよ、という驚愕のスタンド能力

一方肝心のエバちゃんは学校の中で唯一いじめを問題視していた生徒・ジェニーとルームメイトになります。

ジェニーが部屋に飾ってるポスターは「スターウォーズ」のヨーダ

ハン・ソロではなくヨーダを飾るあたりガチファンか何かを悟った賢者としか思えません。
そしてその心を現すかのようにインモラルな学校で唯一まともでいい娘そう…

…だったのですが、そんな彼女も突然年上の医者と恋に落ちてしまいます。
その医者は昏睡状態のキャシーの主治医でキャシーもこの医者に恋をしていました。

かつての友人と恋のバトルが発生…復讐ドラマどこ行ったよ…なとっ散らかった内容に(笑)。

イジメシーンで1番のクズ野郎だった淫交教師を最後の復讐相手として取っておいた方がドラマとしては盛り上がったのではないかと思うのですが、教師は最初にあっさり死んでしまい、代わりにイケメンでもない医者が女子高生2人に取り囲われるのが謎展開すぎます。

けれど母親に知的障害があって父親は身元不明だったというキャシー。元々父性に飢えていて年上男性に依存的になってしまうキャラクター像には説得力を感じます。

恋に焦がれた女子高生が美女に転生して男に執着するというプロットは味があってなかなかイイんではないでしょうか。

実はお母さんが幻覚殺人の犯人だったとかもう一捻りあってもよかったかも…と色々考えてしまいますが、いじめの犯人だけは全員処刑される展開もすっきり。退屈せず観れる1本になっています。

幽体離脱したキャシーの魂が上空から学校を俯瞰するミニチュア撮影のショットはこの世ならざる雰囲気が出ていてよく出来ていました。

そして懐メロテイストな洋楽と集合写真で無理やり青春映画テイストにしてしまう強引なエンドロール(笑)。

ラストまでイタリアンホラーらしい豪快さでオモロかったです。