どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「悪魔のシスター」デジタルリマスター版を観てきました

ブライアン・デ・パルマ監督の73年のサスペンススリラーが期間限定公開。

なんて渋いチョイス、同じデ・パルマなら「キャリー」か「フューリー」か「殺しのドレス」が劇場で観てみたかったなーと思いつつ、改めてみたらこちらも面白かった…!!

ヒッチコックや以降のデ・パルマ作品との共通点をあれこれ考えるのも楽しく、ストーリーより映像が観ていてとにかく面白い。

地味ながらキャストの面々も皆ハマり役で魅力的でした。

◇◇◇

テレビ番組のクイズショーから始まるオープニング。

覗き見している人を覗き見ているテレビの聴衆…をさらに覗き見している私たち…と虚構に虚構を重ねた三重構造がユニークで冒頭から一気に引き込まれます。

ショーに出演していたモデルのダニエルは共演したエキストラの男性と一夜を共にすることに…

ワンナイトラブでいい思いした男性が痛い目に遭ってしまうわけですが、この黒人男性、メンヘラな彼女のために薬買いに行ってくれるわ、バースデイケーキまで用意してくれるわで、めっちゃ優しい。

突然殺されて気の毒でしかありません。

 

バーナード・ハーマンの音楽が鳴り響くまさに「サイコ」な殺人シーンは、口を刺されたシルエットの画がショッキング。今みても迫力がありました。

ここから主人公がバトンタッチし、お向かいさんの女性・記者のグレースが偶然殺人現場を目撃し、真相を追って行きます。

殺しのドレス」のようなヒロイン交代劇ですが、場面転換が上手い。

瀕死の被害者とそれをどうすることも出来ない目撃者の絶望感…スプリットスクリーンの映像も抜群に効果的。

昨年みた「VORTEX/ボルテックス」は全編画面2分割にしてましたが自分はあまりしっくり来ず、ここぞという時に効果的に使っているデ・パルマの映像がやっぱりいいなあと思いました。

 

グレースは怪しいダニエルを独自に調査しますが、実はダニエルがシャム双生児だったことが発覚。

穏やかで感受性豊かなダニエルと激しい気性のドミニクの姉妹は、ダニエルが主治医のブルトンと恋に落ちたのをきっかけに関係がギクシャク。

ブルトンは姉妹の分離手術に挑みましたが、結果ドミニクは死亡。

ダニエルの精神はその後不安定になり、薬を服用しないと、肉体的接触を持った男性を切りつけてしまうようになってしまったのでした…

妹の意識が乗り移ったのか、妹に対する罪悪感が別人格を生んだのか…ここら辺が分かりにくくてドラマパートが薄いのは残念。

サイコサスペンスにした方が面白かった気もしますが、ダニエルの手術跡に触れるとなぜかグレースは姉妹の過去の記憶を覗き見ることに…

過去の白黒映像は「サイレントヒル」のような不気味さ、双子の妹がいつのまにかグレースに代わっている不条理な悪夢が恐ろしい。

医師のいいなりにならなかった気難しい妹と、束縛されない自由な女グレースの2人が重なり合う…全体的に抑圧された女性のドラマを感じさせるストーリーでした。

妹そんなに社会不適合やったんかな…姉の方がめっちゃ不安定な感じして正常な人格っていうのどうなんやろ…と思ってしまいましたが…

 

ソファから死体の臭いしそう…なんて余計なこと考えつつ、打ち捨てられた黒人男性の死体が気の毒。催眠は永遠に解けないし、待っていても犯人はもう来ない…苦味の残るエンディングもデ・パルマらしい。

いつまでもソファを見守り続けるチャールズ・ダーニングの姿が妙にシュールで余韻が残りました。

 

シネマート新宿さんで鑑賞、500円でリーフレットが販売していました。

自分はいつもA4のクリアファイルを持ち歩いてますが、今回のリーフレットはB2サイズとデカくてびっくり。

ビニール袋を大っきいカバンに入れて持ち帰ったら上がちょっぴり折れてしまったという(汗)。

でもこの昔のポスターのビジュアル、やっぱりカッコいいですね。

シネマートさんはヘルレイザー2・3・4も上映していて観たかったのですが、時間がなく断念。パンフだけ買わせてもらいました。

 

初期のデ・パルマを堪能できてとても楽しかったです。

 

「オルカ」…全てを失った男同士の対決に涙…!!

年末に観た「カサンドラ・クロス」が素晴らしかったので、同じリチャード・ハリス主演のこちらも鑑賞してみました。

ジョーズに便乗したアニマルパニックものかと思いきや、感傷的で繊細な人間ドラマ。

妻子を殺されたシャチの復讐劇で、動物を傷つけた主人公は自業自得…という厳しい見方もあるようですが、自分はこの主人公、愚かだと断罪できないものがあって胸にきました。

人生のままならなさ、罪悪感と向き合って背負いこむ誠実さを感じて、リチャード・ハリスの主人公がめちゃくちゃ切なかったです。

 

◇◇◇

アイルランド人の漁師ノーランはシャチを捕獲して水族館に売ろうと計画。

巨大で美しいオスのシャチ・オルカを発見し銛を撃つも、誤って隣にいた妊娠中のメスに当たってしまいます。

スクリューに巻き込まれ深手を負ったメスシャチは、お腹から飛び出てきた赤ちゃんシャチとともに死亡。

怒りに燃えるオスのオルカは漁場を荒らし町を破壊。ノーランを対決に誘います…

 

シャチいくらなんでも賢すぎやろ…途中の展開にはツッコミどころもありつつ、追い詰められていく様はしっかりホラー。

そして何より家族を失ったオルカが可哀想で…

痛みを訴えるメスの鳴き声、涙を流しているようなオルカの眼差し…

夕陽を背にオスのシャチが妻の亡骸を浜辺まで運び、仲間のシャチたちが途中取り囲みながらも別れていくシーンの美しさと哀しさに涙が出ます。

 

一方漁師のリチャード・ハリスも元はそんなに悪い人ではないことが分かって辛い。

無知で軽率だったけれど、親戚から譲り受けた抵当付きの小さな船が唯一の財産。

選択肢のない人生を歩んできた苦労人だということが伝わってきます。

教会で懺悔しても罪悪感は消えないまま。

人間は間違うこともある、そのときは謝ればいい…なんて言うけれど、許してもらえるかどうかは向こう次第。

相手を傷つけてしまったことがずっと消えないこともあるのかもしれません。

取り返しのつかない過ちを犯してしまったときのどうしようもなさ、愚かだけれどそれを背負いこむ男の誠実さに胸が痛みます。

 

映像はアニマトロニクスと本物のシャチを両方上手く使っていて、今のCG映像よりも遥かに迫力がありました。 

海と山に囲まれた閑散とした小さな町も物寂しさが立ち込めていて、絶妙な雰囲気。

後半がやや失速気味で、いい役者さんが出ているのに乗組員が何の見せ場もなく殺されていくのは残念。

けれどクライマックスの氷山だらけの冷たい海の景色は悲壮感漂っていて素晴らしかったです。

 

実はノーランも飲酒運転の事故で妻子を失っておりオルカと同類だったことが発覚。

ベタで出来過ぎたドラマですが、「何者なんだ!!」とオルカに向かって叫ぶノーラン。

対決の前、「シャチに会ったらあれは不幸な事故だったと伝える」とノーランは語っていました。

まるでかつての自分自身を納得させるためのような言葉ですが、瞳に映るもう1人の自分は「納得などできるか!!」と怒りをぶつけて襲いかかってきます。

人生にはままならないことも多々あって、仕方がないと諦めるしかないのかもしれないけど、割り切れないことだってある…

人間の理に支配されない怒りのシャチの姿が哀しくも美しく、胸をうちます。

 

ストーリーは荒削りな部分もあるけれど、文学的な感じがしてジョーズ亜流などとは到底思えない風格を感じました。

モリコーネの音楽はどことなくマカロニウエスタン風味でありつつ、心揺さぶられる美しさ。

このジャケットは誇大広告だろ(笑)と思いつつ、昔の映画のこういうビジュアル、ロマンがあっていいですね。

報われない苦労人のおっさんを演じたらピカイチ、リチャード・ハリスの個性が作品にドンピシャ。

愚かで不器用な男の苦渋のドラマが心に沁みました。

 

「殺人捜査」…エリオ・ペトリ監督の異色犯罪劇

昨年みたモリコーネのドキュメンタリーで取り上げられていて気になっていた70年のエリオ・ペトリ監督作。

アカデミー賞外国語映画賞を受賞しているそうですが、国内では未ソフト化。

観るのが困難な作品だと思っていましたが、八点鐘さんのブログで取り上げられていてなんとAmazonで配信されているとのこと。

wedplain15.hatenablog.com

これは今観るしかない!!と早速鑑賞してみました。

 

主演は「夕陽のガンマン」のジャン・マリア・ボロンテ、「マッキラー」のフロリンダ・ボルカン。

社会派ドラマの要素が強い知的な作品でしたが、サスペンスとしての作りも巧み。

犯人視点で話が進み、途中回想がインサートされるも主人公の考えが全く分からないまま話が突き進んでいく…こういう時系列交差の作品は当時は今ほど主流ではなかったかと思いますが、全く先が読めず今観ても斬新に感じられる作品でした。

 

(以下ネタバレ)

愛人女性を殺害する主人公。

指紋もそのままに部屋を荒らしまくり、「死体を発見した」と自ら警察に通報。

わざと足跡やネクタイの繊維を残すなど、どうみても捕まりたいとしか思えない不自然な行動が謎めいていて、冒頭から一気に引き込まれます。

なんと主人公は警察のお偉いさんで、どうみても怪しいボロンテを捜査陣はなぜかスルー。

主人公の不可解な行動は「権威ある立場にある自分も公平に捜査されるかどうか」確かめてみたかったのでしょうか。

女性の夫が犯人だと記者にウソ情報を垂れ込むなど、強かに権力を利用したかと思えば、挙がってきた容疑者を全力で庇う…主人公の行動はアンビバレントで何が目的なのか分かりません。

 

警察の中ではカリスマ的リーダーであるものの、愛人女性との回想では「小さい男」と罵られて動揺する情けない一面もある主人公。

強い男を演じなければならない人のプレッシャーとストレスは伝わってきて、手中にある力を使ってみたい気持ちと、自分を是正してくれる己よりも大きな存在がいて欲しいという願望がひしめき合っている…複雑な男をボロンテが見事に演じていました。

 

警察が1番近くにいる犯人に気付かない(気付こうとしない?)のが間抜けで、とてもシニカル。

警察官が証拠のない容疑者を大勢で取り囲んで恫喝していたり、公然と盗聴が行われていたり、警察の暗部が描かれています。

前半にあるボロンテの署内演説シーンが圧巻ですが、赤狩りを連想させるし、ザ・独裁者な佇まい。

けれど「同じ犯罪でもテロ行為であれば礼賛される」という言葉は重たく響いて、無関係な場所に爆弾を投げ込む無政府主義の青年も善人とは到底思えませんでした。

鉛の時代といわれるこの年代のイタリアの背景を知っているとより深く味わえる作品なのかもしれません。

 

フロリンダ・ボルカンの愛人が「私を殺して」と笑顔で囁いたあとに殺されるので、合意の上の殺人だったのかと思いきや、常日頃から尋問プレイや死体ごっこプレイなどを倒錯SMプレイをやりたい放題だったというオチ(笑)。

一方主人公が性的不能だったことも示唆されていて、もしかすると隠れゲイは主人公だったのかも…

本当はドMで誰かに叱責されたい、若い男に抱かれたい…ボルカンは主人公の願望を表した蜃気楼のような存在だったのかも…

精神世界を描いたような幻惑的な雰囲気もあって、ボルカン登場シーンは途端にジャーロっぽい雰囲気に。出番は少ないけれどファムファタールなオーラに魅了されました。

 

最後に主人公は警察に自分が犯人だと自白して証拠まで提出するものの、警察の威信を失うわけにはいかないと真相を葬られてしまいます。

主人公は弱みを握られて組織にこき使われるバッドエンド…かと思いきやさらに夢オチ!?

主人公が警察官たちを自宅に迎え入れブラインドを下ろすところでエンドロール。自ら捕まらない道を選んだのかなあ、偽の自分を演じ続けるのかなあ…仄暗い皮肉めいた結末でした。

 

モリコーネの音楽は、奇怪で滑稽で底が知れない作品そのものを見事に表わしていて、圧倒的存在感。

知的な骨太作品でしたが、雰囲気はジャーロっぽくて普通にサスペンスとして面白かったです。

amazon以外にもU-NEXTでも配信されているようです。

殺人捜査 (字幕版)

殺人捜査 (字幕版)

  • フロリンダ・ボルカン
Amazon

気になっていたレア作品、観れて僥倖です☆

 

刑事マルティン・ベック「ロセアンナ」…スウェーデン至高の警察小説、第1作目

昨年鑑賞した「刑事マルティン・ベック」の映画がとても面白かったので原作小説を手に取ってみました。

全10冊のシリーズ、自分が観た映画作品は7作目だったようですが、どうせなら順番に読んでみたい…1作目にあたるのがこの「ロセアンナ」でした。

「この本は警察官の基礎となる価値観、忍耐という美徳の物語である」…と後書きにあったけれど、全編貫くフリードキン映画のようなストイックさ。

北欧ならではの薄暗い雰囲気、少しずつ真相に迫っていく捜査のドキドキ感など「ドラゴンタトゥーの女」にハマった人ならこちらも好きになれそう。

翻訳のおかげなのか思った以上に読みやすく、とっても面白かったです。

 

◇◇◇

港町で発見された若い女性の死体。

警察は地道に調査を続けるも被害者の身元が全く分からないまま数ヶ月が経過してしまいます。

そんな中ある日アメリカ警察から、その死体が米国内で行方不明になっているロセアンナ・マッグローという女性に違いないと電報が入ります。

旅行中だったロセアンナは観光船に乗っていたところを船内で出会った何者かによって暴行殺害された模様。

約100人が乗船、各港町で入れ替わる乗客全員の行動を辿るのは不可能に思われましたが、警察は観光客の撮った写真やフィルムを集め、ロセアンナが偶然映った瞬間がないか血眼で探します。

そしてようやく彼女の傍に佇む謎の男の存在を発見しますが…

 

何の手がかりも出てこない前半部分のタメが長い!!(でも面白い)

報われるとも限らない雲を掴むような捜査を延々と続ける警察官たち。決して解決をあきらめない強靭な精神には尊敬の念を抱かずにいられません。

本筋とは関係ないけれど鮮烈な印象を残すのは、主人公マルティン・ベックがふと思い出す先輩警官のエピソード。

解決しなかった担当事件を休日にまで追う姿、平常時には感謝もされないが後から見逃しが発覚すると一気に責め立てられてしまう理不尽さ…責任感ある真面目な人の人生が壊れてしまうエピソードに心が沈み込みました。

 

船の従業員への地道な聞き込み、同僚同士で会話しながらの思考整理…一緒に捜査班に加わったような心地がする臨場感たっぷりの文章。

写真の映り込みを必死で探すところは「ドラゴンタトゥーの女」にも似たような展開があったよなーと、ドキドキが止まりませんでした。

やがて容疑者が浮上しますが、落ち着きすぎていて何だか怪しい。

尾行も数日で終わりにせず行動パターンを完全に掴むまでやめないところなど、主人公たちの辛抱強さにひたすら圧倒されるばかりでした。

 

(ここから最後までネタバレ)

犯人はロセアンナからセックスの誘いを受けたあと彼女を殺害し、その後死体を痛めつけたようでした。

おそらく何かトラウマがあって、性に積極的な女性を憎悪している(その反面女性とセックスしたい欲望もある)…

「サイコ」「殺しのドレス」のような、割りかしベタな殺人鬼像ですが、65年の作品なので当時は新鮮だったのではないでしょうか。

そしてこの犯人、吉良吉影のようななんとも言えない不気味さを醸し出しています。

火曜はボーリング、水曜は映画館。職場の人とも家族とも一切交流がなく、ルーティン化した毎日をひたすら送る静かな男。

ベックたちはロセアンナに似ていた女性警察官に囮捜査を依頼し、現行犯逮捕しようと試みました。

女性の誘いになかなか乗ってこないくせに、女性宅近辺をひたすら何時間もウロウロする犯人がめちゃくちゃ不気味。

獲物を狩る準備のための行動ではなく、何かに取り憑かれたように無意味に歩き回ってる…っていうのが余計に怖かったです。

二重人格的というか精神錯乱気味な犯人ですが、動機については深く掘り下げられていないのがクリスティのような推理小説と大きく異なるところ。

厳格な母に育てられ性を愉しむことができないまま成長。恋人シーヴ・リンドベリから性の手ほどきを受けるも、彼女がポルノ雑誌に出ていたことを知って破局。色々拗らせて奔放な女性を憎むように…(※勝手な想像です)

 

本作で影のような存在感を放つ被害者・ロセアンナは、犯人と対照的に性を自由に愉しむ女性として描かれていました。

分かりいい説明こそないけれど、抑圧された人間の憎悪がひしひしと伝わってくる闇深ドラマ。

自分が本作で最も驚愕したのは、12歳の女児を暴行した男が1年で出所してくるというエピソードですが、もう恐怖しかありません。

囮捜査に協力してくれた勇気ある女性捜査官も結局怖い目にあってしまってトラウマにならなかっただろうか…性犯罪の恐ろしさをまざまざと感じさせるようなところも「ドラゴンタトゥーの女」(女を憎む男たち)となんだか印象が重なりました。

 

ここから主な登場人物について「唾棄すべき男」の映画と比較しつつメモしておきたいと思います。

マルティン・ベック
映画ではメタボ体型のおじいちゃんでしたが、小説ではそんな描写はなく原作者は若い頃のヘンリー・フォンダをイメージしていたとか。

陰惨な事件が食欲を無くすのかとにかく何も食べない。胃腸が弱くコーヒーを飲んでは気分が悪くなる。

仕事に全てを捧げた生活をしていますが、暇持て余した主婦の妻がやることないから余計に旦那にちゃちゃ入れてくるの、悪循環すぎて切ない…

コルベリ
映画では幼い息子を育てる温厚そうな男でしたが、小説ではイメージが違って辛辣な皮肉屋。ベックとの掛け合いが楽しいです。堅実な仕事人で頼りになる仲間。

メランダー
映画ではほんの少し登場しただけでしたが、警察のデータベースとも言うべき驚異の記憶力の持ち主。

1回見ただけの記録映像も完璧に頭に叩き込んでいてとんでもない男。

酒は飲まない倹約家。パイプ煙草を吸う。

アールベリ
事件現場から程近い地元警察の捜査官でロセアンナ事件の担当となった男。

事件への責任感は半端なく「絶対捕まえてやる」の熱意迸る、真面目で優秀な警察官。

ラーソン
映画ではブルジョワな雰囲気を醸す血気盛んな刑事でしたが、1巻では所々に登場するも出番は少なめ。

ルンドベリ
若い巡査。カフェで容疑者を最初に発見し見事に尾行を成功させました。「唾棄すべき男」の映画に登場した〝アイナー・ルン〟とはおそらく別人。

ステンストルム
尾行の達人。他の事件担当しててもめっちゃ手伝ってくれる頼りになる仲間。

 

クリスマス当日に警官たちが大慌てでプレゼント買いに行ってたり、アメリカの捜査官とのやり取りで聞き間違いが発生して「犯人もう撃ち殺したの?グッジョブ!!」となる所はおかしくて笑ってしまいました。

アメリカ映画のような作品だと、海を隔てた米国人捜査官カフカとの美しい友情が始まったり、ロセアンナの死を皆で悼んだり…そんな感傷的なシーンで締め括られそうですが、本作はそういうのが全くないまま終わる(笑)。

警察官が仕事を終えて家に帰るところで終わっていて、でもそんな淡白なところがまた味わい深いと思いました。

 

全10巻のマルティン・ベックシリーズ。

この「ロセアンナ」はシリーズの中ではあまり高評価ではないらしいのですが、自分は既にめちゃくちゃ面白かったです。

そして「唾棄すべき男」の映画が原作の雰囲気をいかによく捉えた出色の出来であったか、認識させられました。

dounagadachs.hatenablog.com

スウェーデンの地名がたくさん出てきてどんなところなんだろうと「地球の歩き方」なんかを手元に置きたくなりますね。

次巻も楽しみに読んでみたいと思います。

 

「サスペリアPART2」4KレストアUHDBlu-ray/78年日本劇場公開版を鑑賞しました

サスペリアPART2」4Kレストア日本公開45周年記念UHDBlu-rayが昨年12月20日に発売。

4枚組のBOXの方は大ボリュームの内容で、なかなかイッキミできず特典含め少しずつの鑑賞になりましたが、ようやく目玉の部分を鑑賞し終えました。

21年に4Kレストア版が劇場公開された際にも観に行ったのですが、ダウンコンバートされたものだったらしく、さらに綺麗な映像になっていて驚き。

あまり鮮明になりすぎると「例のあのシーン」がネタバレになってしまうのでは…と心配でしたが、とても自然に溶けこんでいて、上手く撮られていたんだなーと改めて感心。

赤や黒の色が美しく、あの時代のイタリアの摩訶不思議な世界に連れて行ってくれる、素晴らしい映像でした。

 

今回のBlu-rayの「日本版のみの特典」として収録されてるのが〝78年日本劇場公開版〟。

尺としては「従来の劇場公開版」と同じく105分ですが、所々に違いがあって驚きました。

・画面が異様に明るい
フィルムの保存状態によるものなのか分かりませんが、映像が異様に明るく白飛びしているような印象でした。

マークとカルロが噴水広場で話す印象的な場面は、夜のはずが夕方5時ごろにしか見えない明るさ。

暗闇に浮かぶはずの背後のブルーバーも目に入って来ず幻想的な雰囲気が薄まり、屋敷の探索シーンも明るすぎてスリルが激減。

比較すると今回の映像の美しさが余計に目に沁みました。

・独自のタイトルロゴ
オープニングでは、黒バックに白文字のシンプルなタイトル「DEEP RED」の代わりに、見慣れない水色のタイトルロゴ「SASUPIRIA PART2」 が挿入されてびっくり。

サスペリア」の公開の方が先だった日本、それに便乗しようと東宝東和さんがつくったものでしょうか。凄いフリーダム(笑)。

・字幕が全然違う
字幕は下位置ではなく、右位置に縦文字で付いていました。

翻訳も今とは全く違う趣で、

「ピアノが女の体に思えて弾いていて欲情する」
→「僕にはピアノは楽しい女だ。ケツをなでてやるんだ」

「医者によると僕は父を憎んでいて父を殴る代わりにピアノを叩いているそうだ」
→「精神分析だったら父を憎んでいたからだろう。父の歯を折るつもりでキーを叩いてる」

ストレートな表現が多く、特に繊細なカルロは粗野な印象に(笑)。

公開時はこんなだったのかーと驚きました。

・凄惨な死のモノクロ処理
犯人が酷い最期を迎える場面。残酷描写を軽減させるためか「ゾンビ」の日本初公開版と同じく数秒モノクロ処理がされていました。 

わずか数秒なのであまり意味を感じず、他のゴアシーンはやらなくていいんかい!!と思ってしまいました(笑)。

・謎の効果音が追加
驚かせ効果を増幅させたかったのか、謎の効果音が何箇所か加えられていました。

・マークがアパートで作曲作業をしているときに犯人がやって来る場面。天井から白い粉が落ちて来るところで大きな効果音&犯人の足音が追加。
こんな大きな音に無反応な主人公に違和感が増します(笑)。

・アマンダが自宅で首吊り人形を発見した時に驚かすような大きな効果音

・ジョルダーニが浴室のダイイングメッセージに気付いて振り返るところで同じく大きな効果音

・クライマックス真犯人の顔が鏡に映った瞬間にデュクシ!!というこれまた不自然な効果音

突然大げさな音が鳴るのに笑ってしまいました。

 

画面の明るさ含め驚きの連続でしたが、始まりに挿入される東宝東和のロゴ、フィルムの雑音もしっかり収録…など公開当時の追体験ができる他にはない味わいがありました。

超貴重映像で、観ていてとても楽しかったです。

 

新規映像を含んだ特典映像も充実。

アルジェント本人のインタビューはもちろん、トップバッターで殺されるマーシャ・メリルのインタビュー、冒頭でカルロの子供時代を演じていた元子役さんのインタビューはこの方たちの作品語りを観るのが初めてで、とても興味深かったです。

ブックレットはアルジェントがインスピレーションを得たホッパーの絵画が載せられたお洒落なデザイン。

DVDでーたさんの先月号の付録には「アナザーバージョンのジャケ写」が特典で付いていて、入れ替えてみました♫

自分は2012年に発売されたBlu-rayは購入しておらず、手元にずっと持っていたのは2005年の紀伊國屋さんから出たDVD−BOX。

今回のBlu-rayは本編の映像が格段に綺麗になっていて、プラスアルファの特典も自分は大いに楽しませてもらい大満足でした。

日本語吹替もバージョン違いで収録されているようなので、これから観てみたいと思っています。

人生のベストの1本、何度見ても素晴らしいです。

 

↓↓過去記事の「完全版と公開版の違い」、新しく2か所発見があったので追記しました。

dounagadachs.hatenablog.com

 

「カサンドラ・クロス」を午前十時の映画祭で観てきました

コロナ禍で引き合いに出されることも多く、タイトルだけは知っていたのですが、ずっと未見だった作品を午前十時の映画祭で初鑑賞してきました。

パンデミックものかと思いきや後半は怒涛のアクション。まさに1粒で2度美味しい作品。

最後の橋のシーンは夏に観た「ミッションインポッシブル7」よりも迫力があって思わず声が出てしまいました。

◇◇◇

ジェリー・ゴールドスミスの音楽が鳴り響く中、一切のセリフなくスタートする冒頭。

救急車の担架を上から追ったカメラアングルなど緊迫感があって一気に惹きつけられます。

細菌類に感染したテロリストが逃亡し国際列車に逃げ込むというシンプルなストーリー。

ワンちゃんのお皿から水飲むわ、調理室で咳を撒き散らすわ、やったらアカンことばっかりしててイライラ(笑)。

発見されたあとの隔離は衝立もマスクもないわ、外科医が内科の診察をするわ…めちゃくちゃに思えてきますが、もう絶対感染してますやん…と初っ端から絶望一直線なのが新鮮でした。

 

とにかくキャストが豪華でびっくりでしたが、凄腕神経外科医のリチャード・ハリスソフィア・ローレンは別れたりくっ付いたりを繰り返しているカップル。

2人の恋愛ストーリーにはイマイチ乗れずでしたが、中年が主人公なのは味があっていいですね。

ソフィア・ローレン綺麗だけど叶恭子さんに似てるなあ…と迫力あるお顔に圧倒されて観てしまいました。

1番気の毒だったのは収容所に送られた過去のトラウマが蘇るお爺さん。

リー・ストラスバーグ、「ゴッドファーザー2」の敵役のイメージが強かったけど、こちらでも凄い存在感。

どうみても神父にみえないOJシンプソンのキャラクターも子供とのドラマがあってなんだかんだで見せ場あり。

脇役でアリダ・ヴァリが出演しているのにも驚きました。

けれど1番魅力的だったのはエヴァ・ガードナー演じる富豪のおばちゃんとそのジゴロやってるマーティン・シーンカップル…!!

犬を溺愛する性欲強そうなマダムとパッとしない長髪の登山家…結構な歳の差だけど、マダムが坊やを包み込む感じなのがいいですね。

一大危機に対処すべく難役を引き受ける恋人に「私のためならいいのよ」とマダムが声をかけるも「別にあんたのためじゃないんだからね…!!」とツンデレ対応なマーティン・シーン(笑)。

ミッション・インポッシブルな活躍を見せるかと思いきやあっけなく散ってしまう…安易なハッピーエンドにならないのが70年代らしく趣を感じました。

 

ビックリだったのは病死する人がごく僅かで、病原体云々の恐怖は少なかったこと。

情報を知らされず隔離される怖さ、制圧しようとする軍人との対立など人間同士の争いの方に重きを置いていてロメロ作品のような味わい。

窓にバリケードが貼られていくところが無情で1番怖かったです。

めっちゃ銃撃ちまくるリチャード・ハリスにあんたホンマに医者でっか…とツッコミつつ、ラストのカサンドラクロス橋の攻防にハラハラ。

模型を使っていると分かるところもあったけれど、鉄棒が列車を貫通したり、車両がサンドして潰れたり、死の恐怖が感じられる迫力ある画が素晴らしかったです。

「前の車両を切り離せば後の車両が助かるし、重みが減って前が助かる可能性もあがる」…合理的に判断を下すところは医者らしい。

憎まれ役はバート・ランカスター演じる軍人ですが、ラストにはそんな彼にも監視がついていることが発覚。

仄暗いエンドがまた70年代らしく、余韻が残りました。
 

午前十時の映画祭も年末年始にこの作品をぶつけて来るなんてよっぽど人気の映画なのかな…と思ったのですが、ちょうど76年の年末に公開された作品だったそうで、さぞかし興奮のお正月映画だったことでしょう。

今年はリバイバル上映を幾つか観たけれど、いつもよりお客さんの平均年齢がやや高めに感じました。

 

相変わらず旧作の鑑賞に偏りがちな1年でしたが、年の終わりにいい映画を観れて感謝!!

面白い大作映画を観た満足感が残りました。

 

「マニトウ」…エクソシストからの呪術廻戦!?少年漫画的胸熱ホラー

ある日女性カレンの首に謎の腫瘍が出来た。

胎児のように日に日に大きくなり、手術で除去しようとすると謎の超常現象が勃発。

なんと腫瘍は太古の呪術師・ミスカマカスが転生しようとする前兆なのだった…

「グリズリー」のウィリアム・ガードラー監督による78年のホラー。

ストーリーだけみるとキワモノ感あり、「エクソシクト」亜流のB級映画かと思いきや、意外にしっかりした真面目な作り。

西洋の信仰が全く役に立たず、医者・占い師・霊媒師・呪術師が女性を救おうと集結。

先日鑑賞した「エクソシクト信じる者」とプロット的には共通するものがあるように思うのですが、キャラクターが皆魅力的でこちらの方が圧倒的に面白いです。

 

カレンのため奔走するインチキ占い師を演じるのはトニー・カーティス

裕福なおばさんたち相手に適当なこといって商売してるいい加減なおじさんですが、根は悪くなさそうで温かみが感じられる人物。

占い顧客の婆さんがいきなり「パナ ウィチ サリトウ」と叫び出し、廊下を空中浮遊し階段から転げ落ちる場面のインパクトが強烈。

不気味なのになぜか笑ってしまう…自分はもうこのシーンだけで心を鷲掴みにされてしまいました。

 

ハリーはかつての自分の師匠であるアメリアを訪れ、降霊術で何が取り憑いているのか調べてもらうことにします。

霊の見た目からどうやら取り憑いているのはインディアンの霊ではないかと推測されて、次に訪ねるのが人類学者。

1つ1つ解決に向かって行こうとする主人公らの行動に説得力があり、テンポがいいのも素晴らしい。

 

調査の結果、400年前に死んだネイティブアメリカンで史上最強の呪術師・ミスカマカスが転生しようとカレンの肉体に宿ったことが発覚。

呪術には同じ呪術で対抗すべくハリーはアメリカ先住民ジョン・シンギングロックの協力を仰ぎます。

「自分が同じ立場だったら助けるか?」「助けんだろうな」…正直なハリーに好感を持ったのか仲間になってくれるジョン。

短いながら人物のやり取りにしっかりドラマが感じられるのもいい。

 

そしてとうとう転生したミスカマカスがカレンの背中から生まれ出てその姿を現しますが…放射線治療を受けたためダメージを受けて完全体でないというのが妙にリアルな設定。

フロア全体を氷漬けにしたり、召喚とともに建物を歪ませるような地震を引き起こしたり、かなりの強敵感があってドキドキ。

美術は手作り感に溢れているけれど、突然現れる非日常空間にロマンも感じてしまいます。

閉じ込めていた部屋が宇宙空間になるのにはびっくりですが、「領域展開…!!」って感じで胸が高鳴る面白バトル。

 

勝ち目なしかと思いきや、なぜかタイプライターを投げ付けると一瞬怯むミスカマカス。

ジョン曰くこの世のあらゆる万物には霊が宿っていて、機械には機械の霊がいるのだと言います。

ミスカマカスも白人の機械の霊を操ることはできないから、それを敵にぶつければ倒せるかもしれない…

ラストに立ち上がるのはなんと取り憑かれていたはずのカレン。

突然のスーパービーム攻撃は予算が足りなかったのかかなりシュールな映像になってますが、観終わったあとはなぜかスカッとした気分に(笑)。

 

西洋の価値観が全てではなく相手の土壌をリスペクトして戦わなければならないところ、最後には現代の白人文明を味方につけて打ち勝つところ…ストーリーは破綻なくしっかりしていて、異文化交流を描いた意外に深い内容!?な気もします。

復活しようとした呪術師を悪と定めるでもなく、「またいつか会うかもしれない」などと締めくくるところもフェアでクール。

「火と戦うには火を使え」「自信は聖者と愚者のものだ」…台詞も少年漫画的!?でカッコよくてシビれます。

 

デビルサマナー ソウルハッカーズ」というゲームをやったときに、電霊マニトゥという敵と主人公を導くインディアンのキャラクターが出てきたのですが、この映画の影響を受けているのかな、と思いました。

ちょっとした場面もズームアップしたり下アングルから撮ったり画が工夫されていて、ラロ・シフリンの大作感あるスコアが豪華。何より俳優陣がキャラクターを魅力的にしていて素晴らしい。

グロ描写と恐怖度は低めかもしれませんが、なぜか優しさを感じる真面目ホラーで、とても好きな作品でした。