小学生の頃…私の幼馴染・Aちゃんの家にはたくさん漫画があって、遊びに行った時にいつも読ませてもらっていたのだが、その中でも強く印象にのこっているのが、犬木加奈子さんという漫画家の作品だ。
自分だったら初見ではまず欲しいと思わない、怖そうな絵とタイトル…。背表紙だけでも黒バックに赤文字とホラー色が強かった気がする。
「なんでこんなん買うたん…」などと思ったが、読んでみると、これが意外に面白くて、Aちゃん宅にお邪魔すると、いつもかじりついて読んでしまった。
今回は、自分が小学生の頃に読ませてもらった犬木加奈子さんの漫画の中で、特に心にのこっている「不思議のたたりちゃん」という作品について、思い出してみたい。
※小学生当時の自分がどう感じたかを思い出しつつ、語りたいので、今一度読み返したりもせず、記憶が曖昧なまま&ネタバレで語りまくるという雑な内容になっております。
“たたりちゃん”は決して怖い人物ではない
「たたりちゃん」は、犬木加奈子さんの他の作品と比べると、そんなに怖い作品ではなかったと思う。
表紙に描かれているのは、目のギョロっとした、前髪を垂らした女の子。この主人公の名前が確か、「神野たたり」というのだ。
たたりちゃんは、その奇抜な名前と、内向的な性格などをきっかけに、まわりのクラスメイトからイジめられてしまう。(年齢は小学校高学年~中学生くらいだった気がする。)
ところが、たたりちゃんには、自分をイジめたものに災いをもたらす…“たたりをもたらす”ことができる超能力めいたパワーがあった。
たくさんのイジメに遭うたたりちゃんだが、最後にはやり返して、イジメのループから脱出しようとする。
たたりちゃんは決して怖い人物ではなかったと思うし、最後の“たたり”も、復讐めいた怨念のこもったものではなかった気がする。
「自分のやったことが如何に人を傷つけているか気付いてほしい」と、相手の人物を相応の目にあわす…という雰囲気で、命まで取っていなかった。
(たたりの対象者が負傷したり…何か奇妙なものに変身したり…などたたりが大きい回もあったと思うが、永久に続かない一時的なものだったように思う。)
またたたりちゃん自身、内向的で個性的な雰囲気ゆえに、クラスで浮いてしまいがちなところが多少あったかもしれないが、性格そのものに物凄い難がある子ではなく、優しい子だったと思う。
むしろ「人に嫌われなくない」という気持ちが強く、嫌だと思ったことを大きな声で否定できないような大人しい人間。そういうたたりちゃんをターゲットにして、イジめる人間の方が嫌らしさが怖い作品だった。
たたりちゃんの神回
すごくおぼろげな記憶のまま書いているが…
「たたりちゃん」の中で自分が印象にのこっているのが、たたりちゃんに“よっちゃん”という友達ができる回だ。
よっちゃんもたたりちゃんのことをイジメていたことがあって、よっちゃんは決して聖人君主ではない。しかし、ある日、ささいなことがきっかけで、よっちゃん自身がイジメの標的になってしまう。
意地悪なグループには得てしてそういうところがあるのかもしれない。
新しいターゲットを探して代わりにイジメたり、グループの中で異を唱えたものを標的にしたり…。
そういう集団の愚かさに気付いたよっちゃんが、初めてたたりちゃんの気持ちを理解し、歩み寄る。そして2人が手を取り合う。
「もっと早くこうすればよかった。」と仲良くなる2人だったが、クラス分けの季節がすぐに来て、またバラバラになってしまう。
でもずっと1人だったたたりちゃんに初めて仲間ができた、アツい回だったと記憶している。
もう1つ自分が印象に残っている回は、イジメてくる人間が、教師だった回だ。
たたりちゃんが、ひょんなことから先生の反感を買って、悪質で執拗なイジメを受ける…というようなお話だったと思う。(家庭科の先生だっただろうか??提出物などを無残に壊されたり酷いことをされていたように思う。)
「大人が子供をイジメることもある。」「そのときは本当に逃げ場がない。」という怖さに溢れた回だった。
「たたりちゃん」の親は一体どんな人たちなのか?
自分は「たたりちゃん」を多分5巻くらいまでしか読んでいなくて、完結したのかどうかすら知らない。
しかし大人になった今思い出して1つ疑問に思うのは、「たたりちゃんの親は一体どんな人物だったのか。」ということだ。
苗字が「神野」で、子供に「たたり」という名前をつけるのは、なかなかのことではないだろうか。
まあ、作者が作品のテーマを主人公に名付けただけで、本当の名づけ親は作者といえる(笑)。だが、描写として、「たたりちゃんがイジメられる発端はこの名前にも要因がある」というものがあったように思う。親の名づけへの思いは色々あるだろうし、災いが来ないようにあえてそんな名前をつけたのだ…など、もしかすると、個人の信仰心などによる深い意図があるのかもしれないが…。
いずれにせよ、たたりちゃんが「自分の名前にコンプレックスのある子供」として描かれていたのは印象強い。
また、たたりちゃんは、いつも日記をつけていて、漫画の構成もたたりちゃんの日記を追っている…というものになっていたのだが、この演出も今思い出すと興味深い。
たたりちゃんは自分がイジメられたことを日記に書く。しかしありのままは書かない。現実をそのまま記述するのが辛いので、「日記では・・・・・・・・と書いておこう。」……と、あえて辛い部分を書いていなかったようなところがあった…(それがコミカルな演出にもなっていた)とおぼろげだが記憶している。
「自分をよくみせたい」という虚栄心からというよりも、「辛い現実から逃避する」という、たたりちゃんなりの心の守り方なのだと思う。
日記の中ですら真実を言わないたたりちゃんは、学校でイジメに遇っていても、決してそれを親に告白しない。
自分の子どもがこれだけのイジメにあっていれば、親も気付きそうなものだが、気付いていなさそうである。いや、本当は気付いているが、関心がないのか…。
自分が覚えていないだけなのか、たたりちゃんの両親に関する描写はほとんどなかったと思う。おうちの雰囲気(部屋のつくり)はむしろ裕福そうだったと思うのだが、たたりちゃんの他人に気を遣う性格など、もしかすると、家庭内になにか問題があるのかもしれない……などとこの年になった今、邪推してしまう。
「たたりちゃん」のラスボスはご両親だったら面白いのになー、という下世話な妄想だ。
犬木加奈子さんの漫画はどれも面白かった
Aちゃんの家には、「たたりちゃん」の他にも犬木加奈子さんの漫画がたくさんあった(笑)。
「ようこんなん読むわー」と最初は言っていたのに、自分も夢中になって読んでしまった。
「暗闇童話集」という短編はグロくて怖い話が多かった気がする。整形して美人と顔をとりかえっこする「笑う肉面」も怖かった。「スクールゾーン」はジュブナイルっぽい雰囲気であまり怖くなかった気がする…。「不気田くん」という、男子高校生が美女をストーカーする話は気持ち悪かった…。
どれに収録された短編だったのか、異様に記憶にのこっているのが、「腹話術師のイケメンのお兄さんがファンの女性と恋に落ちるが、実は腹話術人形の方が生きた人間で、イケメンの方が機械だった」……というお話だ。
真実を知った女性は去っていき、見た目を受け入れてもらえなかった哀しい男性が1人佇む…というお話だったと思う。
ホラー漫画やホラー映画などは、好きだというと、モノ好き感があるし、「こんな残酷なものを読んで…」と非難めいた目線でみられがちなこともあるように感じる。
特にそれに触れているのが子供だとその良し悪しを問われることは多いかもしれない。
でも案外、他のジャンルの作品よりも、強烈なインパクトでもって、子供時代というまっさらな下地に、ある種の道徳的メッセージを伝えてくれたりもすることもあるのではないかと思う。
「たたりちゃん」もイジメの怖さ、イジメられた方の辛さ…いつもそうとは決して限らないが“やったことが自分に返ってくることもある”という戒め…などメッセージ性のあるとても良い漫画だったのではないかと思う。
文を書き終えて検索してみて初めて知ったが、7巻で完結していて、新シリーズみたいなものもあるようだ。ネット版でも読めるみたいなので、これを機会に再読してみたいなあ、と思う。