どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

漫画「嘘喰い」の不自由な箕輪が愛おしい

※好きな漫画の、好きなキャラクターについて語った記事です。

ギャンブル漫画「嘘喰い」は、2006年~2018年に週刊ヤングジャンプで連載された作品だが、自分の大好きな漫画の1つだ。

嘘喰い コミック 全49巻 セット

嘘喰い コミック 全49巻 セット

 

 

「賭けの勝敗がついたあと、掛け金を踏み倒されたらどーすんのよ」「勝ったはいいけど、そのあと殺されでもしてうやむやにされたらどーすんのよ」…と、”勝負をなかったことにしないための”暴力要員(肉体的に強い)のキャラクターも数多く登場するのが特徴である。

ギャンブルの内容がものすごく面白いし、そしてそのギャンブルを成立させるために戦う“バトル漫画のような暴力パート”もまためっちゃ面白い…というなんとも贅沢な作品である。

 

魅力的な、カッコいいキャラクターが数多く登場するが、今回は自分が個人的にものすごく好きなキャラ・「箕輪勢一」について語ってみたいと思う。

※以下作品の詳細(10巻~14巻の内容)について記述しています。

 


一見、くたびれたオッサンの箕輪だが…

箕輪の登場する巻は10巻~14巻。

一応警察の人なのだが、主人公たちは警察とも戦うので、敵サイドの人間ということになる。

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©SAKO TOSHIO /SHUEISHA 嘘喰いトランプカードより


警察の中で“密葬課”とよばれる、国家や警察にとって不都合な人間を始末する特殊チームに所属しているキャラクターだ。(密葬課というネーミングだけでワクワクする。)


嘘喰い」では様々なゲーム・ギャンブルが登場するが、箕輪の登場巻で行われるのは、“迷宮ギャンブル”という勝負。

ルールは、詳しく説明すると複雑になってしまうが、「頭脳派キャラと肉体派キャラ2人で1組になる。そして敵のもう1組と、どちらが先に迷路から出られるか競う」…というような大筋だ。

箕輪は、肉体派のキャラで、暴力担当なのだが、話が進むと、意外に頭がいいことが分かる。ハッタリをかましたり、相手を騙したり、モールス信号で味方に連絡をとったり、策士のような一面をみせてくれる。

 

イケメンキャラが多い「嘘喰い」の中において、箕輪の見た目は恰好よい感じではない。

「くたびれたスーツを着た、顔の怖い、細っこいおじさん」にみえるのだが、本当は超マッチョ…!!脱ぐとスゴいんです…!!

実はミオスタチンという突然変異の遺伝子の保有者で、異常なまでの力と屈強な肉体を持ち、高い戦闘能力を誇る。

見た目では体重60㎏ぐらいにしかみえないが、100㎏をゆうに超えているという。「進撃の巨人」のアッカーマン一族みたいな人かもしれない。

 

見た目そんなに強くなさそう→実は強化人間のごとく強い
暴力要員で頭はよくないはず→案外頭がいい


…と、印象を次々と裏切るところがまず面白いキャラだと思った。

 

 

とんでもないミスリードで明かされる箕輪の過去

この箕輪とチームを組む“頭脳派担当”のキャラとして、天真(あまこ)という警視庁の超エリートが登場する。

 

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©SAKO TOSHIO /SHUEISHA 嘘喰いトランプカードより

自らを選ばれし逸材と考え、他の人間を見下し利用しつくすイヤな奴である。(主人公の曰く、“下衆な臭いがする”人間。)

迷宮ギャンブルのストーリー展開では、複数のキャラクターの回想シーンがところどころで挿入されるのだが、その中に、 “男の子が、必死に勉強しているが、お母さんに折檻される”という雰囲気の、印象的なものがある。

この回想シーンをみて自分は思った。この天真というキャラクターは実に嫌なやつだが、人格を否定されながら勉強を強要されるような幼少期を過ごし、こんな歪んだ人間になったのだと。

 

しかしこれがとんでもないミスリードで、一連の回想が天真でなく、実は箕輪の回想だったことが判明する。

その回想シーンの作り方が絶妙だ。

 

一見すると、「無理やり勉強させられている男の子のところに、お母さんがたくさんのご飯を差し入れた。しかし勉強が全然はかどっていないので、怒ったお母さんがご飯を捨ててしまう」……とみえる画。

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嘘喰い迫稔雄集英社 14巻より

あとから見返すと、「お母さんに無理やり大量のご飯を食べさせられていた男の子が、心の慰みに勉強したいと思ったが、食事が進んでいないことにお母さんが腹をたてて、勉強道具を捨ててしまう」…という画だったことが判明する。

 

天真ではなくて箕輪の回想だった…というミスリードもさることながら、強要されていたのは勉強でなく食事だった…と2重に構成されたミスリードが見事で、きれいに騙されてしまった。

箕輪は先程あげたように、突然変異の遺伝子をもった強い人間だが、箕輪の母親は、「あなたは選ばれた人間だから持って生まれたものを生かさなくてはならない」…と息子の肉体をより強靭にするため、大量の食事をとることを強要していた。

本人はそれが嫌で、おそらく他の子ども達と同じように普通に勉強したかったのだが、母親が一切許さない…というネグレクトを受けていたのである。

 

キャラクターの回想シーンや過去話はどんな漫画でもよく出てくるし、ときに数話かけて描かれたりすることも多いと思う。

しかし「嘘喰い」の作者が描く回想シーンはこの箕輪に限らずだが、どれも短めで、ほんの数ページで終わることが多い。1から10までを解説する分かりやすさはないが、読者に想像の余地を与えるような隙を与えつつ、強烈に心に迫ってくる。

 

箕輪の回想シーンは短いがとても悲しみに満ちていた。

これをみて、自分にとって箕輪は“ギャップ萌え”の塊のようなキャラクターになってしまった。

・人を食ったような飄々とした雰囲気から想像もつかないほど、実は心を病んでいる。
・肉体的に強靭だが、それと同時に普通に生きることが困難な枷をはめられている。

一見自由そうで、とんでもなく不自由な人間。

“食べること”に強烈なプレッシャーを持っていた彼は、迷宮ゲームの経過とともに、悲劇的な最期を迎える。決して出番の多くないキャラクターなのに、全巻とおしてものすごく印象にのこる人物になった。

 

 


箕輪の所属する“密葬課”は悲しい過去の人が多い!?

箕輪の所属している「警察の暗殺部隊」のような密葬課には、箕輪以外にも作中活躍するキャラクターが数人いるのだが、皆魅力的で大好きなので、少し紹介してみたい。

 

嵐童公平(ランペイジ

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©SAKO TOSHIO /SHUEISHA 嘘喰いトランプカードより

機動隊所属の屈強そうな男。賭郎の“掃除人”と死闘を繰り広げるが、彼の過去回想シーンも短いのにとても悲しい印象である。

おそらく小さいときから周りの人に暴力を振るっていた…もしかすると何らかの発達障害があるのかもしれない…女性を暴漢から助けたが、余計に恐れられる…母親だけが唯一の味方だったが、その母にも存在を否定される…

台詞がほとんどない、走馬灯のような数ページ…オルゴールが鳴っている画が度々挿入される。音のない漫画だけれど、嵐堂の頭の中では母親に買ってもらったそのオルゴールの音が鳴り続けているのが分かる…箕輪が、母親が自分を呼ぶ声を忘れられないのと同じように。

この嵐童(密葬課)VS賭郎戦では、警察の上層部が、密葬課のことを「世に蔑まれてきた怪物共」呼ばわりしていて、利用するだけの存在くらいにしか思われてなさそうだった。つくづく密葬課は“報われない人たち”なんだな、と余計に応援したくなった。

 

三鷹花(鷹さん)

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©SAKO TOSHIO /SHUEISHA 嘘喰いトランプカードより

ジーさん・バーさんがめっちゃカッコいい漫画って傑作率が高そうと勝手な事を言ってみるが、この鷹さんはめっちゃ強いバーさんで、めっちゃカッコイイ。車の中という狭い空間で戦う…という驚きのバトルシーンがあるが、このシーンの鷹さんは忘れられない。

でも人間離れしたキャラクターかというとそうでもなく、この鷹さんにも回想シーンがでてきた。昔出産したが、赤ちゃんを1日で亡くしてしまったという悲しい過去…。

「初めてみた自分の赤ちゃんは冷たく固まっていた。」「私はせめて一晩だけでもと、本能で抱き寄せた。」「少し意識を失った。」「そこにはあったかい赤ちゃんが寝てた。」「よかった…生きてた。あれは悪い…夢だった」「私は一晩しかあたためてあげられなかった。」

嘘喰い迫稔雄著 集英社 39巻台詞部分のみ抜粋

2ページにも満たない回想シーンなのに、心を締め付けられる。

鷹さんは結構仕事を選びそうなイメージ(汚れ仕事にもキッチリ良し悪しつけそうなイメージ)なので、どんな雰囲気で働いてたんだろうか…と気になってしまう。

 

真鍋匠(課長)

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©SAKO TOSHIO /SHUEISHA 嘘喰いトランプカードより

顔の左頬だけが多毛症?なんでしょうか。卵(特にホビロン)を異常に好んで食し、田村正和のような姿勢で考え事をするミステリアスすぎる課長。個性的なイケメン。

課長だけ、過去回想シーンが皆無で結局謎の男のまま…。

心の内が分かりにくいキャラだけど、45巻で語った恒例の“生物蘊蓄”にて、“密葬課は滅んだわけじゃない”“乗っ取ってやってもいい”みたいに(多分)語っていて、転職に納得&前向きなことが分かって、嬉しかった。

あの密葬課の課長なんだからさぞかし強いんだろうと期待をもたせて、満を持しての登場→期待を裏切らない強さ…の流れが最高にカッコよかったです…。

 


密葬課のメンバーは、曲者ぞろい…。

案外箕輪はこのチームの中では、潤滑油(←就活生かよ)だったのでは…などと想像してしまう。

 

30巻~31巻の巻末には、なんと密葬課のおまけ漫画なるものが登場するが、あまりにシュールなギャグなので、どう受け止めていいのか迷ってしまったが、箕輪が普通に母親と良好な関係を続けていると思われる1コマがあって少し驚いた。

別に密葬課ではなくて、もう少し自由の幅が広そうな他の組織に入ることだってできただろうに、“警察”を選んだ箕輪はお母さんを喜ばせたかったのかも…などとまた妄想してしまう。

こじらせた母性本能みたいなものをくすぐられるキャラクターである。

 

 

嘘喰い」メチャクチャ面白いからもっと知っている人増えて…!

最後に……今回、自分は箕輪と密葬課に集中して語ってしまったが、「嘘喰い」は全編とおして物凄く面白くて大好きです…!!密葬課だけでなく、立会人のキャラクターたちも大好きだ。そして何より主人公の貘が、全巻通して、最高にカッコよかった…!

最初の方は面白かったがだんだんつまらなくなる漫画が山ほどある中、30巻過ぎたあたりでさらに面白くなる漫画は中々ないのではないかと思う。

特に、40巻~43巻で展開するギャンブル“エアポーカー”は、水中で酸素をかけて戦うギャンブルだが、マジのマジで面白った…!

 

 

記憶を消してもう1度読みたい…!色々好きな漫画はあるけれど、「エアポーカー」の最大瞬間風速を超えるものはないなあと思う。


残念ながら、自分は大変なゆとりなので(※ゆとり世代ではなく脳みそが残念なゆとり)ルールの理解が全く追い付かないギャンブルがいくつもありました。

ドティやハンカチ落としの分かる人は、数学の先生よね~といつも思っていました。


全49巻、まだまだ読んでいたい気もしたが、終わり方も綺麗で見事にまとめられていたと思う。

こんなに面白いのに自分のまわりでは読んでいる人がいなくて、どんな悲惨な出来栄えでも受け止めるから、実写化して知名度あがればいいのになー、なんていつも思っている。

 

同作者さんの新作、「バトゥーキ」も楽しみにしている。

バトゥーキ 4 (ヤングジャンプコミックス)

バトゥーキ 4 (ヤングジャンプコミックス)