どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「戦争のはらわた」…サラリーマン的悲哀と不可解だけど凄みのあるラスト

これまで敵役ばかりだったドイツ兵をあえて主人公に置き人間らしい兵士として描く…当時衝撃を持って迎え入れられたという77年製作のサム・ペキンパー監督作。

ドイツとソ連が死闘を繰り広げる43年の春。
卓越した戦闘能力を持つシュタイナー伍長はプロイセン貴族出身のシュトランスキー大尉を新たに上官として迎え入れることになりますが…

10年窓際族やってたコネ入社のボンボンがいきなり異動してきて周りを振り回す…
戦争映画というと構えて観てしまいがちですが、本作の人間ドラマは意外に親しみやすくサラリーマン的悲哀や組織の愚かさが突き刺さります。

人の弱み握って腰巾着つくる、高い理想語りがち、具体策なく精神論でなんとかなるやろと部下に丸投げ…とうんざりする上司なシュトランスキー。

他の上官も呆れ顔でこんな奴が激務の部署にまわされてくること自体組織に未来はないんだと痛感させられるようなクソ人事です。

そんなクソ上司を迎えつつ部下は守りたい現場課長が主人公・シュタイナー(ジェームズ・コバーン)。

仕事はめちゃくちゃ出来るけど根回しやおべっかは一切できないタイプ。

不器用だけど誇り高い「ワイルド・バンチ」の野郎どもに通じるアウトロー気質。部下には慕われるも上からは評価されずチームにその皺寄せが思わぬかたちでやって来ます…

 

脇役含め他の登場人物も皆印象的。
将校クラスでもナチ党員ではないブラント大佐とキーゼル大尉は遠くにいる管理職とは違いとっくに敗戦を予期していて厭戦的です。

今にも崩れそうな塹壕の中お誕生日祝いをする兵士たちは強い絆で結ばれており、負傷のため帰国できるとなった主人公も仲間の下に舞い戻ってやっと生き生きした表情を取り戻します。

お国のためでもなく大義のためでもなく、仲間のために戦う…多くの軍人ってこういう人たちなんじゃないだろうか、と思わせる人物描写がリアルです。

 

ヒロイックな大規模戦闘シーンはなく、霧がかった森の中で見事な斥候をやってのける主人公たち、悪路も障害物もなんのそので追ってくる戦車…と緊張と恐怖の連続。

仲間が死ぬ場面ではこれでもかとスローモーションになって今みるとちょっと過剰な感じもしますが、悲壮感際立っていてエモーショナル。もうやめてーってこちらも叫びたくなります。

 

そしてやや難解な印象を残すラストの後味が独特。何かを超越したような凄みを感じてしまいます。

部下を失ったシュタイナー、ソ連軍が攻めて来る中「俺が鉄十字勲章のとり方を教えてやる」とシュトランスキーを引き連れて戦場を駆け進んでいきます。

弾の再装填すらできない大尉をみて高らかな笑い声をあげるシュタイナー。

大尉に意趣返しができてスッキリした歓びの笑いなのか、無能な自軍や戦争自体が滑稽に思えて笑ったのか…

合間にはソ連の少年兵の姿が挟まりこれがまるで幻覚のようで、子供がごっこ遊びでもしているような不思議な感覚に陥ります。

 

あれだけ憎々しかったシュトランスキーですが、「プロシアの闘魂をみせよう」と語ってみせる笑顔には邪気が全くありませんでした。

シュタイナー小隊にはディーツという若くやや貧弱な印象を与える新兵も配属されていましたが、彼も道中「日陰だけを踏んでいれば生き残れる」とまさに子供じみた馬鹿げた遊びに興じていました。

けれど過酷な状況下ではある種の遊びを見出せるような精神が要る、そういう人が戦場を駆け回れるのかもしれません。

「ワイルド・バンチ」では主人公たちが最後の銃撃戦突入前、自分たちの死が確定したような場面で笑みを溢していて、なんでこんなところで笑えるんだ!?と思ってしまうのですが、死を前にしても戦闘を遊びのように楽しめてしまう子供のような無邪気さが人の中にある…

戦争自体は嫌悪する理性的で善良なシュタイナーにもそういう一面があった、むしろ誰よりもその性質が強かった、というオチなのかなと思いました。

 

冒頭とエンドロールで流れる童謡〝ハンス少年の歌〟がまた強烈な印象を残します。

「故郷の人々は誰も彼だと分からない」…という歌詞には何とも切ない気持ちにさせられますが、ママだけは「私の息子!よく帰って来たわね!」と言った…そもそもどんな人間にも純粋に暴力を楽しめる気質はあるもんなんだよ…と全て許容・肯定するような大らかさのようなものも感じてしまいます。

けれど実際の戦場の場面では人が手足を失い残酷に死んでいてやっぱり恐ろしい…元から備わっている人の性質であってもそれが発露しなければならない戦争は悲惨なものなんだと、なんとも複雑な気持ちが残るエンディングでした。

 

イライラMAXにさせてくれるシュトランスキーを含め人物描写が秀逸、けれど消化できないようなどっしり重たい気持ちが残る凄い作品でした。