ツンデレおじさんと冷血イケメンにグイグイ迫られる乙女ゲーのようなときめき、ゴシックホラーのムードも堪らないイギリス名作文学「ジェーン・エア」。
以前2011年の映画版を鑑賞したのですが、1000ページほどある原作を2時間に圧縮。
ダイジェストのようでドラマが薄くなってしまい、キャストのイメージも違っていてイマイチ。
83年のBBCのドラマ版が出来が良いと伺ったので観てみました。
こちらは前後編合わせて4時間。
映像や音楽は映画に比べると厚みに欠けていますが、ロチェスターとのロマンスに重点を置きつつ原作に忠実でかなり丁寧につくられていました。
原作でも「決して美人ではない」という設定のジェーン。
若いようで歳とってるような独特の雰囲気の女優さん、小柄なのも設定通りでイメージぴったり…!!
007のボンドはやや重ためな印象でしたが、こういうコスチューム劇がよく似合います。
原作では見た目があまり良くないコンプレックス拗らせた男として描写されていましたがダンディーなイケおじに(笑)。
個人的にはもっと個性的な容貌の人の方が萌えたなあ…と思うけど、いかめしく近寄りがたい雰囲気、低い声など原作のイメージに近いところもあって、そっけない掴みどころのない人かと思えば内に情熱を秘めているのが伝わってくる…いい感じのツンデレおじ様に仕上がっていました。
前半4分の1は少女時代〜寄宿舎学校時代。
11年映画版のサリー・ホーキンスのリード夫人は弱々しく繊細な印象であちらは新解釈として面白かったのですが、こちらでは憎々しい意地悪婆さん。
弱者に辛く当たる偽善的な学校経営者ブロックルハーストとの問答なども原作の言葉のやり取りが忠実に再現されていました。
スキャチャード先生から不寛容な仕打ちを受けるヘレンの様子や、努力が正比例する学習に歓びを見出すジェーンの心情など、短い時間で細かい部分がよく描写されています。
それなのにヘレンの亡くなるシーンを全カットにしたのはなぜ…驚くほど気丈夫で穏やかに死を迎える幼いヘレンの姿が胸に焼き付けられるものだったのに、この場面が描かれてなかったのはめちゃくちゃ残念でした。
学校を出たジェーンはソーンフィールド邸で家庭教師として雇われますが、当主ロチェスターはジェーンに興味津々。
質問攻めにしてくるダルトン、「おもしれー女」って感じでどんどん心惹かれていく心中が伝わってくるようでした。
占い師に変装して好きな娘(20歳年下)の本心を聞き出そうとするドン引きの名シーンもきっちり再現。
そっけなくしたかと思ったら近寄ってくる、わざと嫉妬させて心揺さぶってくる…めちゃくちゃ面倒くさい男ですが、少女漫画みたいな駆け引きにドキドキ(笑)。
けれど過去が明るみとなり、屋敷を去ろうとするジェーンを泣きながら引き留める姿は悲痛でギャップ萌えを堪能させてくれました。
身一つで屋敷を出たジェーンは路頭に迷ってしまいます。
そこで牧師セント・ジョンの助けを得ますが、このキャラクターの描写はドラマでも大いに不足してるように感じました。
弱者の味方であるはずなのに実は野心家。権威主義的で人を見下しがち。モラハラ気質のヤバい男です。
けれど平凡な人生を退屈に思う気持ち、何か大きなことをやって認められたいと願う心は人間らしく思われますし、没落した牧師の家系に生まれ、義務感に囚われたまま一生を終えるところなど悲劇的に思われる人物でもあります。
自分の身近な人たちを大切にしようとするジェーンの決断とは真逆に、高邁な理想を求めて宣教師になることを選ぶセント・ジョン。
感覚的には村にいる美人のオリヴァー嬢が好きなのに自分の理想を叶えるのに必要な道具としてジェーンを妻にしたいと申し出ます。
…がドラマ版にはこのオリヴァー嬢が一切登場せずジェーンとのやり取りも少なくなっていて、原作を知らないとセント・ジョンが普通にジェーンを気に入っているようにみえてしまうかも!?と思いました。
(プロポーズシーンが愛の欠片も感じられない酷いものなので〝こういう人〟なのは充分伝わるかもしれませんが)
気難しそうなクールなイケメンで俳優さんはイメージに合っていてよかったです。
やがて遺産を手にする思わぬラッキーイベントがジェーンに起こります。
これは原作を読んでいても唐突な大逆転ではあるのですが、選択肢を与えられた主人公が何を選ぶか…
1人で富を楽しむでもなく、大きな使命を果たすことを選ぶでもなく、愛する人に寄り添う人生を選ぶ…
今風のお話だとかえって独り立ちルートや冒険エンドになりそうに思うのですが、身体が不自由になった20歳年上の男性を支えることを自ら選ぶ…時代背景を考えても逞しすぎる女・ジェーン。
〝人とは違う特別な人間〟になるのではなく〝自分にとって特別な人を愛すること〟を選ぶのがロマンチックなエンディングだと思いました。
ロチェスターが「ジェーン!」と無我夢中で叫ぶとその声が遠く離れたジェーンに届くシーンは唐突で、「本人の内なる声なのか超常現象なのかどっち!?」なんて思ってしまうけれど、でもこれがゴシックロマンの1つの醍醐味というか、何か大きな力が2人を結びつけてくれた、神の許しを得たってことなんでしょう。
ロチェスターのように大きな過ちを犯した人が神に許されたり、リード夫人のような大嫌いだった人をジェーンが許せるようになる。
人生で理不尽だと思うことが多々あってそれに怒りを抱いたりもするけれど、受容したり乗り越えたりしながら幸せを掴んでいく…力強く、理想的ではありますが、そうした主人公の姿に憧れと愛おしみを感じます。
会話パートは原作をかなり再現してくれている反面、モノローグが時々思い出したように挟まってくるのが中途半端で、せめて冒頭とラストにはしっかり入れて引き締めて欲しかったなーとそこは惜しく思われました。
出番わずかな登場人物も11年映画より断然こっち…!!(フェアファックス夫人など、ジュディ・デンチのような知性溢れる力強い雰囲気の人ではなくもっと柔和なおばさんのイメージだったので)
決して華やかな人ではないのに生き生きした力強さを感じさせる主人公が魅力的に描かれていて、所々カットされつつも、原作の良さをしっかり味わえる映像化作品になっていました。