どうながの映画読書ブログ

~自由気ままに好きなものを語る~

「サラマンダー」…ドラゴンより人間がカッコいいダメ怪獣映画

ドラゴンvs人間…!!

2002年の作品ですが、クリスチャン・ベールマシュー・マコノヒーという今ではオスカー俳優となった2人が豪華共演、おまけにこういうバトルがとことん似合いそうなジェラルド・バトラーも参戦というキャストが魅力的な1作。

サラマンダー [Blu-ray]

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2010年のロンドン。ある日突然1匹の竜が地下から現れ、爆発的に増殖し、火を吐きながら街を焼き払った。

なんと6500万年前に恐竜を絶滅させた竜が長い間眠っていたのだという。

核兵器も通じない強靭な鱗、獲物を敏感に察する探知能力…10年後、荒廃した世界で生き延びた人間たちは静かに滅亡を待つばかりであった…。

どうやってドラゴンが世界を制圧したのか??その部分をニュースや新聞のイメージ映像でやり過ごすというとんでもない手抜きに圧倒されます。

もうこれなら舞台を中世とかにしとけばよかったんじゃないの、と思ってしまいますが、砦で細々と生活する荒廃した未来の雰囲気は悪くなかったりして。

そしてなぜか子供がやたら多いこの砦、夜には子供たちに劇を演じて見せるのですが…

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テレビもないから「スターウォーズ」を後世に残そうと必死…!!クリスチャン・ベールのダースベイダーの物真似、なんて貴重なんでしょう。


どこかB級映画臭を漂わせる中、アメリカ軍の生き残りヴァン・ザン(マコノヒー)一味がどこからともなく現れ、サラマンダーを倒すため共闘することに。

しかしこの肝心のサラマンダーが魅力に乏しい残念モンスター。

どういう習性なのか肝心な部分が明らかにされないままご都合主義的に設定が披露されていくだけで、いつ襲ってくるか分からない恐怖とかが全然伝わってきません。

しかも核兵器でも倒せなかったというのに、爆薬つけたボウガンで内臓を傷つければ倒せる…ってモンスターハンターじゃないんだからさ…。

極めつけは「最初に現れた始祖の1匹を倒せばすべてのドラゴンが滅ぶ」…なんの魔法効果だよ、とツッコミが止まりません。

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 CGの出来は悪くないのに、出てきたときに全く心が沸き立たないのはなんでだろう。

 

しかし、主演2人をはじめ人間サイドが仕掛けるバトルはカッコよく撮れていてポンコツ映画と切り捨てるには勿体ないところも。

マコノヒー部隊が空からパラシュート付けて落下し、金網広がる銃弾定めてドラゴンを捕縛しようとするところはすごいワクワクします。

戦車改造されたような車、ドラゴンの吐く炎にも耐える防火スーツ…細部でいいなーと思うところはちらほらあって、怪獣vs武器持った人間のガチンコバトル、この部分だけを煮詰めればもっと面白かったんじゃないかなー。

 

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 スキンヘッドでムキムキのマコノヒー隊長がすごくカッコよかった…!

この作品、時期的には「リベリオン」と同年公開で、ビデオ屋さんに一緒に並んでて借りた気がするのですが、「サラマンダー」ももうちょっと頑張れば「リベリオン」クラスになれたかも!?とすごく惜しく思われる映画でした。

ちなみに「サラマンダー」ってタイトルは、本編のドラゴンのことを指すわけでもなく、日本の配給会社が勝手につけたみたいですね…。

そんなところもポンコツ大作感が漂う、でもなぜか憎めない1本です。

 

「空の大怪獣Q」…モンスターではない、神だ!

82年公開、ラリー・コーエン監督による怪獣パニックムービー。

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ハリーハウゼン作品を彷彿させる特撮怪獣が暴れる姿にワクワク、大都会とモンスターの組み合わせは「キングコング」みたいでかっちょいい。

その上オカルトホラーを混ぜ込んだようなごった煮のストーリーもB級映画らしくてイイ。

 

舞台はニューヨーク。
冒頭、高層ビルの窓を清掃しているお兄さんが中のお姉さんの様子を伺ってるとわずか数秒後、ド派手に首チョンパ!!

不可解な変死事件だと警察が捜査するもなぜか犯人の目撃情報が1つも出てこない…。

なんと犯行は空を自由に舞う謎の怪獣によるもので、「太陽を背にして動くため」誰にも目撃されないという。

モンスターパニック映画で「あえて怪物の姿なかなかみせない」は常套手段の1つかと思いますがいくら何でも無理がある設定(笑)。

しかもその怪獣がクライスラービルの屋上に巣を作っているというからビックリ。

怪獣のサイズ的にどう考えてもここに出入りすんの無理そうなんだけど…

でも空に潜伏するジョーズの鳥版!!これだけで何だか燃えてきます。


そして、事件に翻弄される人間サイドも個性的な面々が集結。

まずはデヴィッド・キャラダイン演じるシェパード刑事。

怪獣がらみの殺人事件とは別にもう1件、宗教が絡んでそうな「全身皮剥ぎ殺人」の真相を追います。

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一体何の映画なんだよ。

そしてひょんなことから怪獣の巣の居場所を知ってしまう男、クインを演じるのはマイケル・モリアーティ

売れないピアニストをこじらせて窃盗を繰り返すダメ男で、怪獣の情報をダシに警察から恩赦と金を巻き上げようとします。

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ゲスな笑顔がたまらない名演技。

怪獣に食われろと思ってみてたら意外にガッツのある奴でだんだん清々しく思えてきます。

怪獣と摩天楼と猟奇殺人とゲス男…

怖いものなしのごった煮で攻めてきますが、事件は意外な繋がりをみせます。

なんと怪獣の正体は狂信者がいけにえ殺人で召喚したアステカ文明の神獣だった…!!


タイトルにあるQって、てっきり円谷プロの「ウルトラQ」からとった邦題なのかと思いきや、ケツァルコアトルという神様の頭文字からとったものだったというオチ。

神話では善い神様だったみたいだけど、映画では悲しいかな駆逐対象に…。

警官隊とQの大バトルでは迫力ある映像が展開。

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今の時代のCGではもっとリアルな映像ができるでしょうけど、ストップモーションの独特の画、なんというか〝虚構!〟って感じがしていいです。

ビル群に映るQのシルエット、傷ついた怪獣がビルにしがみつく姿にはロマンがたっぷり。80年代のニューヨークを空から捉えた映像も意外なほど綺麗です。

 

90分の映画と思えないほどお腹いっぱいになるカオスな内容だけど、そんなお茶目な雰囲気もみていてすごく楽しい1本。

 

原作小説の方が面白かった「トレインスポッティング」

90年代を代表する映画作品の1つに入っていそうなダニー・ボイル監督の「トレインスポッティング」。

初めてみたときにはオシャレで演出が面白い映画くらいにしか思わなかったのですが、高校生のときに原作小説を読んだらすごく面白くて、そのあとで映画を再鑑賞するとずいぶん大胆に脚色したんだなーとびっくり。

ヘロイン中毒の25歳、マーク・レントンは大学を中退後就職せず、失業保険詐欺を行い、ときに窃盗に手を染める…とかなり〝クズ〟な主人公です。 

一見グレてるジャンキーにしか思えないレントンですが、小説を読むと、80年代後半のイギリスがかつてない〝落ち目〟を体験している…サッチャー政権の圧迫で地方は失業者で溢れかえっている…そういう背景が分かってまた印象が変わりました。

いい大学を出ても就職できない、社会全体が上向きだった頃を知ってる親世代との感覚のギャップがすごい、家庭が幸せなものと思えず結婚や子育てにも懐疑的…

作品を覆う無気力感は、90年代の日本、氷河期世代の感覚とすごく似ている気がします。

加えてスコットランド人のレントンは〝イギリスのいいなり〟な自分のアイデンティティに誇りを感じられず、静かな怒りを抱えている。

このあたりも敗戦国の日本が引きずる想いと通じるところがあるかもと親近感を抱きました。


さらに小説では、レントンには重い障害のある弟がいてそのことで差別を受けたこと、親に構ってもらえない子供時代を送っていたことなどが明かされます。

ハチャメチャなところがある一方、性根は家族想いで弱者に優しさをみせるという母性的な面のある主人公。そのギャップがとても面白いです。

仲の良かった友人たちとの関係に疑問を抱きはじめ、地元に居場所を感じられない…こういうところは若者あるあるで青春小説の王道っぽいですね。

映画は1歩ひいて主人公をみる感じでしたが、本を読むとなんか分かるーと共感したくなるキャラクターになっていました。

 

そしてこの原作小説、〝短編集の寄せ集め〟のような作りになっていて、レントン目線をメインとしながら脇キャラクター10人程の目線を混ぜつつ物語が綴られている…各人物の視点が交差するのがまた面白いです。

仲間内の馴れ合いの果てに増長した暴力男ベグビー、スマートなイケメンだけどどこか冷淡なシックボーイ、アホにみえて時々賢者なような達観をみせる心優しいスパッド…。

こいつら、博士号つきの野心家に食肉工場の掃除係の仕事をやるくらいなら、脳みそがいかれちまった商業高校出の若造を原子力発電所の技術者に任命する方がましとでも言い出しかねない。どうにかしないとやばいぞ。

池田真紀子さんの翻訳は各キャラクターの話し方それぞれに個性を出しつつ、言葉の言い回しがサブカル厨二心を絶妙にくすぐってきます。高校生の頃には「なんかカッコいいなー」と憧れていました(笑)。

 

人種差別や階級意識をさらっと描いているようなエピソードも多く、あまりにあけすけな描写にウッと驚かされます。

個人的には映画に登場しないキャラクター…唯一”堅気”な男が主人公の「汚れた血」というエピソードがすごく印象に残っているのですが、暴行にあった恋人を経由してHIVをうつされた男がキャリア元の犯人に復讐をしにいく…というすごく怖いお話。

当時のHIVに対する意識、闘病で感じる恐怖が淡々と伝わってきて、これだけで1本別の映画が出来そうな完成度でした。


最後にレントンが地元を捨てて自立のチャンスを掴むところで終わるのは映画と同じですが、爽快感あるハッピーエンドが救いです。

もうこれ以上の終わり方はないだろうと、数年前にリリースされた続編には手を出せずにいます。

 

映画ではドラッグ幻覚の描写もユニークで話題になっていたかと思いますが、確か淀川長治先生も絶賛しておられたドブトイレに落ちたアヘン座薬を取りに便器にダイブするシーン。

禁断症状から逃れるためならウンコの掃き溜めすら清らかな幻覚と化す…今みても斬新な映像です。

小説でも薬による判断力の低下っぷり、苦痛の禁ヤク生活の描写は鬼気迫っていて、この作品に触れて、ドラッグ=オシャレだなんて微塵も思わない。恐ろしさを感じるばかりでした。

 

◆◆◆
映画をあとから見ると、各エピソードを拾って原作の雰囲気を再現しながらコンパクトにまとめている手腕にびっくり。

映画は映画の魅力があると思いますが、息づくような生活のリアルさと主人公の深い内面を感じられたのは原作の方…色褪せずずっと大好きな青春小説です。 

 

「ミッドサマー」、ディレクターズカット版を鑑賞

先週レンタルしてみたミッドサマー、好き嫌いがとことん分かれそうな作品ですが、自分的にはもうグイグイ惹かれる作品で、この監督はユニークで面白いなーと夢中になってしまいました。

勢いでセル版Blu-rayを購入、早速ディレクターズカット版を鑑賞することに。

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すごく豪華なパッケージ。

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怖い絵のポストカードも入ってた(笑)。

 

・オリジナル版・・・147分
・ディレクターズカット版・・・170分

と追加シーンは23分ほど。

大きく印象が変わる場面はなかったのですが、クリスチャンをはじめ男性陣の印象がよりゲスくみえるような場面が多め、ダニーの依存的な部分もより強調されてる感じがしました。


以下ネタバレで追加シーンはこんなだった…というのをあげていきたいと思います。

※抜け落ちてる箇所もあるかもです
※かなり短いシーンには(短)をつけています

 


・冒頭の口論場面が長めに
「旅行行くのきいてなかったけど」の殺伐とした会話に続きがあって、ダニーが「ごめんなさい」と謝り、クリスチャンは「君もサプライズで誘おうと思ってたんだよ」と取り繕い、ちょっと仲直りした感じに。

謝るダニーはより情緒不安定で依存的な感じがするし、なあなあで思ってもないこと平気で言うクリスチャンのテキトーさもより強調された感じ。

こうやってズルズルきたカップルなんだなーと分かりやすく見せてくれる遣り取りでした。

 

・ホルガに行くまでの車中のシーンが長め
ジョッシュとマークが下世話で暴力的な会話を続けているのが追加されて、とことん無神経な感じのする男性陣。

ダニーには遠方の友人から1日早いけどお誕生日おめでとうのメールが…。

ジョッシュはルーン文字の文献を持って来ていて、卒論テーマがクリスチャンと似てるかも…とダニーが指摘。

色々フラグを立てたシーンをここに詰め込んでたみたいですが、クリスチャンは旅行に行く前からテーマ取る気だったのかも。

 

・村の儀式追加(おやつ?を皆で食べる)
皆んなで草むらに座っておやつ?を食べるシーンが追加。

ルーン文字状に並んで座り、感謝を捧げる歌を歌うおじさん。ダンとイルヴァもこのときから登場。

皆が揃う前から食事に手をつけようとするマーク、なんでも内容を翻訳してくれとペレに頼むジョッシュ、2人とも空気読まずとことん自分のことしか考えてないアメリカ人のよそ者、って感じですね。

 

・イングマールの嫉妬!?(短)
キスをするイギリス人カップル、サイモンとコニー…をそっと横目で見るイングマール。

DC版では彼の顔のアップとさらにその表情をみるダニー…と数秒長い仕上がりに。

コニーはイングマールとちょっと付き合ってからサイモンに乗り換えたんでしょうか。村に連れてきた動機は横恋慕と復讐という個人的なものな気がします。

そして人の表情や感情にとことん敏感なダニー、シンドイ子…!

 

・ペレ「誕生日だよ」(短)
クリスチャン誕生日忘れとるやんけ!のシーン、オリジナル版は「彼女が何か言ってた?」の台詞からだったけど、DC版は「誕生日だよ」というペレの親切な一言が追加。

 

・夜中逢引するホルガ民!?(短)
初日寝付けず夜中目を覚ますダニー。

オリジナルは壁の絵を見てるだけだったけど、DC版では夜中に外にこっそり出て行くホルガの男女をみてしまう…。

ホルガ民は個人的な恋愛にはとことん淡白なイメージですが、夜中に秘密のミッションでもあったのでしょうか。それとも置いて行かれなくない恐怖症&彼氏の浮気心を疑うダニーの幻覚??…にしては随分はっきりしたビジョン。

こっそり自由恋愛してるカップルがいれば面白いけど…

 

・ダンとイルヴァの歌追加
いけにえの2人の最後の食事。変な息吐くだけの軽めなシーンが、2人ともガッツリと歌を歌ってました。

 

・ルビ・ラダーを歌うおばちゃん追加
飛び降り儀式の前、村のボス感漂うおばちゃんが歌を熱唱。

加えて絵具で塗りつぶされた聖書ルビ・ラダーがここでしっかりと映ります。

何読んでんだよ、自分の都合のいいように解釈してんじゃないの、とついつい思ってしまいますが。


・クリスチャンとジョッシュの口論が長めに
飛び降り儀式を見てなかったマークは下世話なラジオを聴いて1人過ごしていた様子。

そして宿舎に戻って「俺もここの論文書くから」と急に言い出すクリスチャンに激昂のジョッシュ。

電子図書館の使い方も知らんくせになんで院生やってんだよ!」とより口論シーンが長めに。

クリスチャンのとことん目的なく流されるタイプなところが更に露呈。真面目に勉強してるジョッシュの怒りはごもっともです。

 

・ウラにインタビューするクリスチャン
論文を書くと決めたからか、ホルガの女性(マヤとウラ)に話しかけて色々聞き出そうとするクリスチャン。

「あの飛び降り儀式何回みた?」「その年齢に達する人がいるならだから何回も。」

やっぱりあの儀式は90年に1回じゃないんですね。

メイクイーンも毎年やってそうだし、よそ者大量いけにえ&種付けがレアイベントな年だったのかな??

それにしても皆さん殺しの手つきが手馴れすぎてて、村の秘密を知ったよそ者を定期的に粛正してたんじゃないかと思ってしまいます。

 

・川沿いでまた変な儀式
ガッツリ削除されてたシーン。
特別な儀式があると誘われて集まると、ホルガ民が演劇口調で「もっといけにえを捧げなければ…」と騒ぎ出す。

そんな中1人の子供が「自分が死ぬ、故郷に帰るだけだから死は怖くない」と名乗りをあげ、重しをつけられて沈められそうになるも、ダニーが「やめて!」と叫ぶと村の女性陣がそれに同調し、男の子は救われる…。

なんのイベントなんでしょう、コレは。

儀式に共鳴してくれる人がいるか、村人による試験的なもので、それにパスしたのがダニーだったのでしょうか。

そして村人がいけにえにならなかった代わりにコニーが沈められたのでしょうか。

それにしてもこんな怖い儀式を半笑いでみてるクリスチャンと、スマホ撮影にしか余念がないジョッシュの鬼畜っぷりが際立っていました。


・大口論のダニーとクリスチャン
上記の儀式の帰り喧嘩になってしまう2人。

いい論文が書けると宣うクリスチャンに、外にそんな情報出させないと思うけど…とそういうとこ冷静でしっかり者のダニー。

心理学科生らしく2人の関係を分析的に言葉にしてみたら余計にクリスチャンを怒らせてしまい、挙句「昼食のときに花束を渡されたの、誕生日忘れてたことの当て付けみたいて不快」と容赦ない一言浴びせられる…。

クリスチャンのクズっぷりがこれでもかと強調されてますが、「俺に非があると思わされる」ってすごい重い言葉。

気が利くけどどっかで見返り求めちゃう彼女と、まったく気が利かないくせに疑り深い彼氏と、とことんすれ違う2人。早よ別れなはれ。


・アホなマーク、村の女性に救われる
先祖の木で用を足すという大チョンボをやらかしたマーク。

ペレにも咎められてるとマークに熱い視線を送ってた女の子がやって来て「知らなかったんだから。私がウルフに説明しておくわ。」と庇ってくれる…。

それを「あの娘、俺に惚れてるから庇っちゃってさー」ととことんアホなマーク。ストレスなさそうで幸せだなー。

 

・仲直りしてしまう2人
昨日大喧嘩したダニーとクリスチャン…だけどダニーがやって来て「昨日は悪かったわ」とクリスチャンに謝る。

クリスチャンの方はごめんなさい言ってないのがイヤな感じだけど、別に悪くもないのに先に謝っちゃうダニーもアカンのよね。

結局依存したいがために自分を悪者にして縋り付いちゃうダニーの痛々しさが際立つシーンでした。


・ウルフは〝守る人〟
友人達が見当たらないとダニーが心配する中村人にインタビューしてるクリスチャンのシーン…ちょっと会話が追加。

先祖の木への粗相に激怒してたおじさん、ウルフは〝守る役〟を与えられてかつては医者として巡礼にも行ってたのだとか。

それなのに痛くないおくすり信じて火あぶりで断末魔だったのかーと気の毒なお間抜けさんですね。

そしてインタビュー中もやたら半笑いが多いクリスチャンの好感度は順調にだだ下がり。


・ダニーを見守る長老のおばさん(短)
ホルガ村の女性たちと一緒にミートパイをつくるダニー。

帰りたいとか言ってたくせに外部者の中で1番馴染んでます。

それを外から温かい眼差しで見守る長老おばさんの姿が…「あの娘いいわね」スカウト決定の瞬間ですね。


・マヤと交わってください
長老のおばちゃんに呼び出されたクリスチャン…2人の会話シーンもより長く追加。

「ペレが写真をみせあなたの来る前から夢中に」…ってペレは相当なやり手。

〝一晩だけ交われ〟ってもうその後殺されるの必至ですが察しの悪いクリスチャン。

でも一応ゴネて断ってはいたんですね。この場面はあえて短い方がクリスチャンへの不信感が高まってよかったかもです。

 

 

◆◆◆

後半は練り上げられたシーンの連続だったのでしょうか、その後のシーンは全部オリジナル版と同じにみえました。

しかしレンタル版ではボカされていたモノがクッキリと映っていて、よりスッキリした気持ちで儀式を見送ることが出来ました。


てっきりダニーの家族や聖人扱いされてる障害のある男の子の詳細が追加されてるかなーと思いきや、それはなし。

総じてみるとDC版は「郷に入っても郷に従わない」無神経なメンズが強調されていた印象です。

特典映像の中で出演者が「ホルガは高度なレベルの集団」「魅力的」とも語ってましたが、個人主義アメリカ社会の中で疲れた人にとって集団主義には惹かれるものがあるのでしょうか。

同調圧力の集団か、協調性ゼロで自由を貫く個人か…どっちに転びすぎても生きづらい…そんな不安感を上手く表した社会派ホラーなんじゃないかと改めてみて思いました。


特典映像では、アリ・アスター監督のお姿も初めて拝見したのですが、気難しくて怖い感じの人かと思いきや、物腰丁寧な感じの優しそうなお兄ちゃん…!

前作、今作ともに新しさを感じるホラーで個人的には大満足。次回作もとても楽しみです。

 

 ↓↓オリジナル版(初見)の感想はこちら

dounagadachs.hatenablog.com

 

「クイック&デッド」…スター集合!!サム・ライミの漫画的ウエスタン

ガンマンの早撃ち決闘トーナメントというまるで天下一武道会なワクワクのストーリーが展開する、サム・ライミ監督の西部劇。

マカロニ・ウエスタンっぽい雰囲気もありつつ、ライミの漫画ちっくな映像が炸裂していて実に楽しい作品。

今振り返ると何とも豪華なキャスティングで驚いてしまうのですが…

主人公はシャロン・ストーン演じる女ガンマン。

当時はセクシー女優路線を払拭しようと必死だったのでしょうか…こんなギラギラした美人は今ではあまり見かけず好きな女優さんですが、それにしても時代劇が似合わない美貌(笑)。

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クールなアウトローキャラならよかったのに、止めをさせず躊躇う、過去のトラウマに泣く…と結構エモーショナルなヒロインで、主役だけちょっと浮いてる感じもしなくないですね…。

敵役は圧巻の演技力で魅せるジーン・ハックマン

街の支配者で極悪非道の凄腕ガンマン。強欲で執着心が強く、誰も信じない。老齢でも立ち姿がサマになっていて格好いいです。

レオナルド・ディカプリオ演じる息子、キッドとの親子対決が見ものですが…

軽いお調子者キャラかと思いきや父親に認められたいという願いは切実に伝わってくる、散り際の姿も見事、とディカプリオ昔から演技上手いー!!

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痩身でぐうの音も出ない美青年な姿が眩しい! 

もう1人の注目株、牧師の凄腕ガンマン、コートを演じるのは当時無名だったラッセル・クロウ

若いのに渋みがあって存在感たっぷり、うっとりするイケボ。

敵役のジーン・ハックマンは実は元師匠というところもマカロニっぽくて盛り上がります。

子供の頃みたVHSではシャロン姐さんとラッセルのキスシーン(ラブシーン?)があった気がするのですが、DVDには収録されておらず…。

でも恋愛絡めない共闘関係、これはこれでアリだと思います。


これだけでも豪華キャストですが、その他のモブキャラも味のある人たちばかりで目移りしてしまいます。

冒頭からシャロン姐さんのやられ役になる金歯ビッシリの男は印象に残る面構えですが、なんとのちに「ソウ」シリーズで殺人鬼と化すトビン・ベル

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トランプを撃ち抜くというカード芸をみせるエース・ハンロン(ランス・ヘンリクセン)もカッコいい。

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ほんと、漫画に出てきそうなキャラデザで、意外に西部劇も似合うお顔。

 

決闘シーンが印象に残るのは黒人ガンマン・クレイ(キース・デヴィッド)。実はジーン・ハックマンに恨みを抱く街の人たちから雇われた殺し屋だったけど返り討ちに…という筋書きは「殺しが静かにやって来る」っぽい!?

 

個性的な面立ちの役者さんたちの顔のアップも含め、随所にレオーネっぽい雰囲気を感じる作品ですが、なんといっても主人公エレンの回想シーン…保安官のお父さんが吊るされての処刑シーンは「ウエスタン」にそっくり!!

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こっちを先に観てしまったけど、すごく印象にのこる名場面でした。

 

ライミ監督ならではのスプラッタな遊び心、撃ち抜いた頭に大きな穴が開いて向こうの景色が見えちゃうぜ!!…のショットはふふっと笑ってしまいますが、漫画そのものでみていて楽しいです。

撃ち合いの直前で各人物の顔のどアップが映り緊張を高める演出は「続夕陽」っぽいでしょうか…細かいカットの連続でずんずんとズームアップしていくの、やり過ぎ感がオモロイですね。

そもそも「時計の長針が12時を指したら撃ち合う」っていうシチュエーション、この景色がアニメ的でたまりません。

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ラスト、復讐をやり遂げて賞金を受け取らず1人去っていくシャロン姐さんはモーティマー大佐のよう…。

何も知らずにみてもすごく面白かったけど、レオーネリスペクトな作品なのかと思うと余計に楽しめる作品になっていました。

 

「殺しが静かにやって来る」…冷酷な個人が支配する無情のウエスタン

マカロニ・ウエスタンの王道ストーリーを反転させたようなセルジオ・コルブッチ監督の異色作。

なんじゃこりゃーと叫びたくなる展開はホラーのような理不尽さで、好き嫌いがキッパリ分かれそうな作品です。

殺しが静かにやって来る(2K特別版)Blu-ray
 

1898年ユタ州スノーヒル。町は悪徳判事ポリカットと非道な賞金稼ぎによって支配され、罪のない者が法の名の下に処刑されていた。
無抵抗の夫を賞金稼ぎロコに殺されたポーリーンは〝サイレンス〟と呼ばれる名高い殺し屋を町に呼び寄せる…。

賞金稼ぎって、こういう世界観では善人とは言わなくても「殺すのは悪人だから」とヒーローっぽいポジションな気がするのに、この映画だと1番の極悪人として描かれています。

町の権力者が町民の仕事を奪い、飢えた村人たちが盗みに走る。正当な裁きを受けられないまま賞金をかけられ、〝人間狩り〟が行なわれる…とめちゃくちゃ暗い世界です。
 
舞台は西部劇に珍しい雪景色の町で、モリコーネの美しい曲と相まって寂しい感じが漂います。

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面白いのは、この町の人同士は別にギスギスしてなくて、むしろお互い助けあったりしてる感じなところ。

おまけに政府のお偉いさんも悪い人ではなさそうで、「賞金稼ぎが問題になってるし、人種差別もよくない。新しい保安官を送り込むぞ!」と対策を講じる。その保安官もすごくいい人で治安改善に尽力しようとする。

それなのに、結局ずるい悪党連中にやりたい放題にされてしまうという厳しい現実。
しかも悪党の方は法律は何も犯してないので自分のことを悪いとも思ってなさそう…。

圧倒的な冷酷さをみせつけるのは、クラウス・キンスキー演じる賞金稼ぎ、ロコ。

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この俳優さん自身、ホントにやばい人だったみたいね…

汚いやり口で人を追い詰め、賞金首を殺しては大儲け。死体を回収するテキパキした姿はやり手のビジネスマンのような佇まい。「他人のことは何とも思わない」の究極の姿。

 

つい先日「ミッドサマー」という新作ホラーを観たのですが、あちらでは狂気の全体主義に個人が脅かされる恐怖を感じたけれど、ある意味この「殺しが静かにやって来る」はその逆……圧倒的に利己主義な個人が全体を食い散らかすという怖さを感じます。

介入の少ない実力主義はときに破綻を招く…銃を持ったずるい奴が得をしている自由の国…監督のコルブッチはあえて真逆な西部劇を描くことでアメリカを皮肉っているように思えます。


主たるストーリーは未亡人の復讐劇になっていますが、悪党クラウス・キンスキーに対峙する凄腕ガンマン・サイレンス役はフランス人のジャン=ルイ・トランティニャン

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「男と女」に出演していた方ですがハンサムですね。

サイレンスという名があらわすように、喉を切られて発声障害を抱えているというこれまた異色な主人公。

ヒロインの未亡人役には黒人女性が起用されていることも当時としては珍しいキャスティングです。

結ばれた美男美女の2人が悪党に一矢報いる話かと思いきや、とんでもないラストに…。

 

まさに無情の作品、従来の西部劇が好きな人に当時受け入れられたのか分かりませんが、ラストも物悲しい村の雰囲気も自分はすごく好きで、カルト映画としてジャンルを超えた人気があるのも納得です。

そういえばタランティーノ「ヘイトフル・エイト」も、馬車で居合わせる登場人物、個人が語るまやかしの正義、コーヒーに豪快な食べ方の食事シーン…とリスペクト散りばめてそうな気がしました。

 

公開当時はアメリカではこのラストが受け入れられないからといってハッピーエンド版を作らされたとか。

以前購入したDVDの特典に音声なしの映像が入っていたのですが、すんごいやっつけ仕事でバッドエンド以上に唐突すぎて笑いました。

無情だからこそ伝説になった作品ではないかと思います。

 

「ミッドサマー」…鬱ホラーなのにラストは癒された

前作「ヘレディタリー」に負けない鬱の嵐で、とんでもない世界に連れて行ってくれました。

ざっくりとした雰囲気は「2000人の狂人」に「赤い影」を足した感じ!?

ミッドサマー [DVD]

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カップルが主人公の別れのドラマかと思いきや、前作に引き続き家族ドラマも内包しているように感じました。


↓↓以下ネタバレで感想を語っています。

 

◆一見いい人そうなクズ彼氏

精神疾患を抱えた妹が無理心中をはかり、家族全員を失ってしまった女子大生ダニーは、悲しみに耐えきれずボーイフレンドのクリスチャンに依存した生活を送っていました。

そんな中クリスチャンが友人の故郷であるスウェーデンの小村への旅行に行くというので、ダニーは付き添うことにするのですが…

 

冒頭から撒き上がる不穏の嵐。

…旅行に行くのはいいけど話してほしかった…謝っただろ…”仕方ない”って感じでね…

ヘレディタリーもそうだったけど、登場人物のギスギスした会話には観てるこっちの精神がすり減ります。

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彼氏の方はもう「俺と別れてそのあと死なれでもしたら後味悪い」みたいな自己保身の念しかなさそうで、優しそうにみえて愛の薄い男にイライラ。

 

そんなクリスチャンの冷たさは村に行ってからますます露呈していくのですが…

崖から飛び降りる老人の死が文化だと言い張る村人たちに、「おかしいだろ!」と声を荒げるイギリス人カップルはまともな人に思えます。

それに引き換え、驚いた様子をみせつつも平気で村に居座るクリスチャン。

ジョッシュはそもそも論文目当てだったから知ってたのかもしれないけど、クリスチャンは友人のネタを横取りしたうえ彼女放置で村生活を続ける姿に、ないわーと株がただ下がり。

その後も姿の見えない友人を心配することもなく、自分の保身にだけは抜け目ない、と見事なクズっぷりを披露。

あそこまで悲惨な最期を迎えるのは理不尽ではありますが、「恋人にも友達にもいい加減で不誠実なこんな男、見送ってよし…!!」と清々しい気持ちになりました。

 


◆最後に1人笑っているダニー

彼氏にとっては重たいメンヘラ彼女でしかなかったダニー。でもあんな壮絶な不幸に見舞われたら、精神が危機に陥ってしまうのも当然のような気がします。

彼女の家庭がどんなものだったのか詳細は語られませんが、何度も自殺を口にする妹がいた…と。ダニーが心理学を専攻していたのも家族を助けたい一心だったのかもしれません。

でも結局助けられなかったという罪悪感だけが残ってしまった…妹の死を一緒に悲しむ両親も失くして一人ぼっちになってしまった…

 

グロシーンの多い本作ですが、そういう露骨な場面よりも自分が怖かったのはダニーの幻覚です。

ガス管を口にしている妹の姿。ダニーが直接みたわけではないだろうに話をきかされて何度も頭の中で想像してしまったんだろうと思うとシンドイ。

ダンス大会で優勝して村人たちに笑顔で受け入れられるなか現れる家族の幻。すれ違う母親は全く笑っていない…。

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自分は許されていない、自分を許せないという気持ちをずっと抱えているんだろうなーと、絶望しかない内面にゾッさせられました。


でもそんな彼女が最後の最後に救済を得る。

ダニーは「自分が選んだ彼氏を含めたいけにえたちを火あぶりの儀式を見送る」という、家族の死がトラウマな彼女にとっては最大級の衝撃を体験することになります。

苦痛に共鳴するホルガの村人たちに囲まれ、薬物も取り込んでるというキメキメな状態…

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悲痛な表情を浮かべ息も絶え絶えに歩くダニー。

個人の愛を知っているダニーだけがあそこで一緒に焼かれるような死を体験した…。自分も死を疑似体験することでようやく孤独感から解放され、家族の死を乗り越えることが出来た…そんな風にみえました。

 

最後に1人だけ笑っているダニー。

もし完全にホルガ村に同化したなら泣き叫び続けてるはず…だと思うのですが、自分だけの感情に浸っている。

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家族の痛みに共感しようと必死だった彼女がようやくその呪縛から解放されて自分を取り戻したようにみえて、癒しが訪れる不思議なエンディングでした。

 

◆絶対に行ってはいけないホルガ村

クライマックスは村人の狂いっぷりがハジけててもう「笑ってはいけないホルガ村」と化してましたが、心底気味の悪いカルト集団でした。

「みんなで感覚も何もかも共有しよう」「1人じゃないよ、寂しくないよ」…って聞こえは優しいですが、実際は徹底した個の排除で、集団の維持のためにただ生きるだけ…ってまるで昆虫と化すようなディストピアです。

でも結局のところ「皆いっしょ」というのはなかなか成立しにくいもので、あの飛び降りのおじいちゃんは恐怖が拭えていなかったようにみえたし、ダニーを村に呼んだペレにも彼だけの特別な感情があったんじゃないかなあ…と捨てきれない個の存在も感じました。

あの集団が維持できているのはヤクの力と、あとは時折外部の人間を入れて差別して殺してガス抜きしてるからじゃないのかな…。

どうみてもロクでもない集団。でも精神的に追い詰められたときに誰かに受け入れてほしいと身をゆだねてしまうこともあるのかな…そう思わせるところも怖いホラーでした。

 

 
◆◆◆
不穏な映像と音は神がかっていて圧巻でしたが、衝撃度は「ヘレディタリー」の方が大きかったですかね。

「ヘレディタリー」はバッドエンドにしか思えなかったけど、こちらはどうとでもとれる、ハッピーエンドにも思えるというエンディングがすごくよかったです。

セル版Blu-rayにはノーカット版が収録されているみたいで、147分でもあっという間だったので、こちらも俄然観たくなりました。